マイナンバーはいらない

post by okuyama at 2016.6.20 #123
連続学習会

税におけるマイナンバー(共通番号)強制の構造
連続学習会第2回 報告

 番号法には個人番号の収集や提供について強制する規定はありません。ところが所得税法などの個別法において義務化しているものがあると政府も説明しています。税における個人番号の強制の状況を整理しあるべき姿を考えるために、2016年6月8日東京・渋谷区内で、税理士でプライバシー・インターナショナル・ジャパン副代表の辻村祥造さんを講師に、共通番号いらないネットの課題別学習会の第1回を行いました。
 以下は、この学習会の報告です。
まとめ:奥山たえ子
»報告全文をダウンロード(pdf:880kバイト)
»当日配布された資料「税務関係におけるマイナンバーの取り扱い」をダウンロード(pdf:363kバイト)
 この集会のビデオ記録が、»こちらで公開されています。

共通番号いらないネット学習会第2回
税におけるマイナンバー(共通番号)強制の構造

講師:辻村祥造さん(写真右が辻村さん)

司会からの整理

(司会:共通番号いらないネット事務局・宮崎)
  • 一旦、個人番号を提出してもらえば、その後いちいち書いてもらわなくてもよくする。管理の手間を減らしたい。
    →「記載を要しない書類」を増やしている。
  • 一方、「記載を要する書類」は、国税庁のウエッブになかったが、最近発表された。「告知を要する/要しない」もあって、紛らわしい。
    個人情報保護委員会の「ガイドライン事業者編」*1 のQ4-6で、 「なお、税務署では、番号制度導入直後の混乱を回避する観点などを考慮し、個人番号・法人番号の記載がない場合でも書類を収受することとしています」(下線部が、2016年4月12日に追加更新された)
    →いずれ、すべてに提出を義務づけるぞと読める。
  • 辻村祥造さんのお話

    1.マイナンバー制度利活用ロードマップ*2 について(政府作成資料)

     実施には、カードの普及が必須。保険証を一体化がそのメルクマール。カードの交付:2月に申請、6月になっても交付未だの状況。
     マップに書いてあることのすべての「連携」は、実際には無理。可能になるのは、人口が2、3千万人くらいの国、摘要範囲も限定すれば出来るかもしれない。
     医療情報:マイポータルで閲覧可能になるのか。情報連携はそれほど簡単ではない。市販の医薬品の情報の把握も困難。
     マイナポータル:せめて税分野に限るべき。これ以上広げるべきでない。

    2.オーストラリアの番号制について

    (1)税と社会保障に限定。かつ民間開放禁止。
     今回、視察に行った。政府の役人が、レクチャーしてくれた。
     労働党政権のとき、国民の反対により、適用範囲の拡大は止めた。
     銀行口座に付番:現実問題として困難。口座の数が多すぎる。日本は把握しようとしている。収入はフローだが、預金口座の管理はストックの管理=外国には見られない方針。
    (2)2つの顔を持つ電子政府構想
    1. (a)情報連携:不正検知ツール(税と社会保障における)
    2. (b)カードによって、インターネットに入る仕組み。
        つまりカードがないと、マイナポータルの利用は無理。
     オーストラリアは、国土が広い=役所も遠く、インターネットが必須の社会である。オーストラリアの「マイガバメント」:自分の口座開設には、自分のメルアド登録が必要。ログインには、パスワード+3つの質問を要す。 →カードは不要。パスワードは自分で変更可能。
     しかし、日本ではカードそのもの(+カードリーダー)が必要とされている。「日本は漢字があるので困難だ」と言うが、名前のローマ字表記+生年月日+~の情報を使えば、完全一致で本人特定が出来る。

    3.資料「税務関係におけるマイナンバーの取り扱い」*3

    (a)記載必要の有無をまとめた表(国税庁のサイトには未記載。2月に国税庁に私たちいらないネットが質問した折りに入手したものを、辻村さんが加工したもの)。
        用語解説
    • マイナンバー記載の必要:書式に、「マイナンバー」の記入欄がある。
    • 収集義務あり:提供を受ける側に、収集する義務が法定されている。
    • 告知義務あり:提供を求められる側に、番号の告知(=番号を伝えること。コピーの提出とは限らない)の義務のあるもの。
    (b)所得税の源泉の際に、
    • 甲欄(低い税率)*4を摘要する:告知義務あり。しない場合は、一旦高率で徴税しておいて爾後確定申告で還付→結果税額は同じになる。  
    • 退職所得:申告書を未提出の場合20%で徴税。これも確定申告で税額は同一。
    • NISA(少額投資非課税制度):(所得税と比べて)そもそも軽減されている →メリットを受けるのだから、マイナンバーの提出が必要とされる。
    • 収入が年間70万円くらいの人のケース:扶養控除申告書利用がない人はマイナンバー提出の必要なし。しかし、乙欄(高い税率)での徴税となる。
    • 講演料:年間5万円以上でないと支払調書の作成義務なし、受領する側は告知義務なし。収集者は義務あり。
    • 不動産収入:年間15万円超える場合でなければ、支払調書作成義務なし。 →税務行政は、厳格。しかし、すべての収集は困難だとの実務実感があるので、乙欄での収集を許容する。

    4.ストック(資産)への番号付番について
      ──資産把握の意図とそのメリット

    • 預金口座へのマイナンバー付番:付番の手間は大きいが、その効果は大きい。
      遺産相続時に漏れを防げる(ここにも預金があったよと見つけることが可能)。
    • 不動産の管理:登記名義移転の際に、課税漏れを防ぐことが可能になる。
    • 高額資産の海外移転の監視にも資する。

    Q&A

    Q-1 わざわざカードを持たせることの意味は何か? マイナポータルの利用にはカード+カードリーダーが必要な仕組となっているが、オーストラリアでは本来は不要。なぜ日本は、そんな面倒を選ぶのか。
    A マイナンバーシステムは「新しいインフラ整備だ」と担当者の言葉を聞いたことがある。あまりの率直さにびっくりした。日本は、カードを持たせる事自体が目的。機能の拡大にカードは欠かせない。IT企業には特需。
     電子政府構想において、カードは避けたい。事前の設定が煩雑で、高齢者には無理。
    Q-2 伊勢志摩サミットにおいて通行住民に、顔写真付きカードを持たせたが、マイナンバーカードの利用は出来なかったのか。
    A 不明。国家公務員の職員証として、マイナンバーカードの利用がすでに閣議決定されているが交付が間に合っていない。サミットでも住民全員にマイナンバーカードを配布することが物理的にできなかったのだから検討すらされていないのでは?
    Q-3 オーストラリアは、漏洩はどうなっているか。ストックの把握に踏み込んでいるか。自分(質問者)は税の分野に限るのであればマイナンバーを許容出来なくはないが、しかしITの進んだ韓国でさえ、補足率7割でしかない。
    A たとえ税の分野に限ったとしても、日本は250万社もあって、しかも中小企業が多い。退職者の番号をきちんと管理・廃棄出来るだろうか、それは無理である。だから漏洩の危険性は大きい。
     オーストラリアはITが日本より進んでいる。学校では学生はみなPCを利用している状況。また、オーストラリア国税庁は企業から大量の情報を普段から収集している。ゆえに「税務調査」はほとんど必要ないし、税の補足率は高い。税制も異なる。例えば、通勤は車なので、通勤費は車種・距離などを入力すると自動計算出来るシステムとなっている。
    Q-4 乙欄と甲欄の混在は、事務方の混乱の元だが。
    A 扶養控除申告書に番号を書いて、それから申告に利用するのではなくて、PCに入力して、その後は、そこから使って、電子申告をする。紙のデータは廃棄することになる。
    Q-5 情報漏洩しないようにと言われるが、どのように管理するのか。提供側が、提供先に対して、「きちんと管理します」という誓約書を交付させられるか。漏洩の場合の損害賠償の規定は出来ないか。
    A 番号管理方法が決まっている。安全装置と呼ぶが、番号設置の場所を区分せよ、管理者を限定せよ、確かに廃棄せよと。さらに提供を受ける側は、管理の基準を交付する義務がある。管理や賠償を定めた規定の書式はない。なお、漏洩元の特定は困難だから、責任追及は困難なのが実情である。
    Q-6 従業員がマイナンバーの提供を拒否したら、それでもOKとされているが、いまでもOKか
    A 扶養控除申告書を提出しなければOK。なお「番号は書かなくても不利益なし」との取り扱いは、いつまで続くかは分からない。役所は、小さく産んで大きく育てるが常である。
    Q-7 「マイナンバーの格納されているPCの修理はしない」とメーカーが方針を示しているが。
    A その通りだと思う。法律では、発注者(修理の委託者)が、修理者を管理するという作りになっている。そんなことは実務上無理だ。修理できないかもしれない。大きな企業は、マイナンバーの収集管理を委託しているので、その受託者がPC管理をすることになるだろう。
    Q-8 辻村さん作成の資料*5中、年金に関して、「△」となっている。告知義務ありなのか?
    A 年金支払い者に確認したところ、「告知義務なし」とのこと。告知の法的根拠がない。求める側は、「わが社はマイナンバーを集める義務があります、提出記載をお願いします」といった、巧妙な記載をするものだ。
    加者からのコメント 民商*6は、マイナンバーは憲法違反の制度だとの立場。「記載しなくても、不利益なし」だと政府当局から確認した。ただし、取引先から提出を求められた時は、無下に断れないので、一つ一つ、確認してもらっている。
     ただ、最近 「(提出)協力のお願い。提出ない場合、その旨書面に記入押印してご提出下さい。それを税務署に提出します」との書類を出された会員がおり、どう対処すべきかと困惑している。
    Q-9 障がい者が手当を受給する時の番号記載は、強制しないと判断もあるが、曖昧である
    A 税務署は争いが嫌いなので、「なぜ? 根拠は? どうしても必要か」と聞き続ければ、多分「いや、記入しなくてもよいです」となると推測している。そもそも、税務署は将来的に情報連携によりマイナンバーの情報提供を受けられるのだから、未記入であっても処理は可能である。
    Note
    *1 : »「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」及び「(別冊)金融業務における特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」 に関するQ&A 事業者編
    *2 : 首相官邸のIT戦略本部における「第9回 マイナンバー等分科会」で配布された内閣府作成の資料。»ここからダウンロードできます(pdf, 370kバイト)
    *3 : 当日会場で配布した資料 »「税務関係におけるマイナンバーの取り扱い」(pdf, 370kバイト)
    *4 : 以下、「甲欄」「乙欄」とあるのは、源泉徴収税額を確認するために国税庁が作成・配布している »「給与所得の源泉徴収税額表」の「甲欄」「乙欄」のこと。
    *5 : 前出注3「税務関係におけるマイナンバーの取り扱い」のこと
    *6 : »全国商工団体連合会に加盟する地域団体(民主商工会)。
    photo by kashimie
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