マイナンバーはいらない

post by nonumber-tom at 2017.9.29 #197
マイナンバー訴訟東京 自己情報コントロール権 最高裁判決

マイナンバー違憲東京訴訟 第6回の報告
「本件の争点と求釈明との関連性は判然としない」とする
国のゴマカシと隠蔽に対抗する論点

 東京訴訟の第6回が、8月29日午前11時より東京地裁103号法廷で行われました。裁判は山場にさしかかっています。問題点の指摘にはぐらかした反論が多く、今回は原告側の求釈明に対しても「一般的探索的求釈明を繰り返すものにすぎないのであって、釈明を要しない」と、国側が説明したい事項しか回答していません。 問題点の解明を曖昧にしたまま拙速に裁判を終結しないよう、十分な審理が必要です。
 この訴訟はマイナンバー制度によるプライバシー侵害に対する妨害排除・妨害予防請求として、私たち原告の個人番号の収集、保存、利用、提供の差し止めと、保存している個人番号の削除、そして国家賠償法に基づく損害賠償請求として金11万円の支払いなどを求めるものです。2015年12月1日に提訴し、今回で第6回です。
◯原告、被告の書証は、いらないネットの »「マイナンバー訴訟の資料・法廷文書」(右サイド)に掲載されています。
 前回8月29日の第5回で私たち原告側は「準備書面(2)」と「求釈明申立書」を提出しましたが、今回、被告国側の「第2準備書面」が提出されました。  次回第7回期日は、11月7日14時から東京地裁103号法廷となっています。終了後に報告集会を行う予定です。

裁判長が交代し裁判の進行について協議

 今回、男澤裁判長に交代し、今後の裁判の進行について原告側がいつまでにどのような主張をしようとしているか、明らかにすることを求められました。そして終了後、原告側弁護士と国側代理人の間で進行協議が開かれ、今後の審理計画について協議が行われました。
 次回期日までに原告で、住基ネット最高裁判決やマイナンバーの運用等についての主張を予定し、次々回までにシステム面についての一応の主張を行うということになっています。

情報の公開を求める原告の「求釈明」

 情報連携の本格実施が迫る中、原告としては早く差し止めてほしいのは当然です。しかしマイナンバー制度については運用面で不明な点も多く、システム面についてはほとんど情報が公開されていない状態です。
 今回は求釈明で、
  • ・プライバシー影響評価の実施の実態
  • ・情報提供ネットワークシステム関係
  • ・捜査機関への情報提供
  • ・個人番号と住民票コード
  • ・費用対効果
などについての説明を求めていました。

国は「本件の争点と求釈明との関連性は判然としない」として、ほとんど回答拒否

 しかし国は、ほとんどについて「本件の争点と求釈明との関連性は判然としない」と、回答を拒否しています。これらの疑問が争点と関係ないと言う国の姿勢には、驚くしかありません。
 私たちにできるだけ制度を知られないようにしながら、どんどん利用拡大を進めていくという国の姿勢に、ますます不安が高まります。マイナンバー制度は許せないという一人一人の思いを裁判での主張につなげ、問題点の解明を曖昧にしたままの拙速な裁判の終結は許さず、国側のゴマカシや隠蔽を打ち破っていかなければなりません。

被告国側の「第2準備書面」の主張

 今回被告国側は、原告の主張に対して以下の3点の反論をしています。
  • 第1 自己情報コントロール権は憲法13条で保障された権利とはいえず、実定法上の権利とはみとめられない
  • 第2 番号制度における個人番号の利用及び特定個人情報の提供は、法令又は条例の根拠に基づき、正当な行政目的の範囲内で行われている
  • 第3 番号制度にシステム技術上又は法制度上の不備があり、そのために個人番号及び特定個人情報が、法令又は条例の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的危険が生じている事実はない

原告側からの、被告国側「第2準備書面」に対する指摘

 これに対して当日は原告側より、被告国側の「第2準備書面」での反論が原告の主張とかみ合っていないことを4点にわたり口頭で指摘し、次回以降これらについて主張していくことを述べました。
最高裁判決の「プライバシー権」で、マイナンバー制度の審査はできない
 第1点は、平成20年の住基ネット最高裁判決はプライバシー権を「第三者に開示又は公表されない自由」としてしかとらえておらず、名寄せ(データマッチング)を目的としたマイナンバー制度をその基準では審査できないにもかかわらず、被告は原告の主張したデータマッチングの問題に触れていない
最高裁判決が前提とした住基ネットは、マイナンバー制度とは全く異なるもの
 第2点は、平成20年最高裁判決が前提とした住基ネットと、マイナンバー制度は全く異なる。例えば住基ネットの住民票コードは行政機関等の内部でしか使われなかったがマイナンバーは民間もふくめ広範に流通すること、扱われる個人情報も住基ネットでは住所・氏名・生年月日・性別の4情報であったのに対してマイナンバー制度では税や社会保障のセンシティブな情報が扱われることなど。
正当な行政目的の範囲内で使われているか、明らかにされていない
 第3点として、正当な行政目的の範囲内で使われ効果があると主張しているが、行政効果の試算の根拠は明らかにされていない。証拠として出している「マイナンバー制度の効果」という資料は、机上の数字あわせにすぎない。
マイナンバー制度では民間事業者からの漏洩が問題になるので
住基ネット最高裁判決を当てはめることは不当
 第4点として、システム技術上又は法制度上の不備について、住基ネット最高裁判決を当てはめていることは不当。住基ネットでは行政機関等の外部に漏洩するか否かが論点だったが、マイナンバー制度では広範な民間事業者で使われ民間からの漏洩も問題になる。実際に発生している特別徴収税額通知書の誤送付による漏洩の指摘に対しても、「番号制度そのものとは別次元の人為的ミス」としており、マイナンバーによって漏洩した情報がデータマッチングされて悪用されるリスクを見ていない。

住基ネット最高裁判決(2008年3月6日)とマイナンバー制度

 住基ネットの違憲差し止めを求めて全国で裁判が行われ、2005年5月30日に金沢地裁で、2006年11月30日に大阪高裁で、住基ネットを違憲とする判決がありました。

不十分な最高裁判決の判断

 最高裁の合憲判決は、データマッチングによる自己情報コントロール権侵害というプライバシー権が争点であったにもかかわらず、自己情報コントロール権については判断せず、「個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」のみを憲法13条により保障されたプライバシー権として判断するという不十分な判決でした。判決から10年以上経過し、情報環境も大きく変わっている中で、自己情報コントロール権をプライバシー権として位置づけた判断が求められています。

番号制度は自己情報コントロールの実現を目的としていた?!

 そもそも番号法の元となった2011年6月30日に政府・与党社会保障改革検討本部が決定した »「社会保障・税番号大綱」は、「国民の権利を守り、国民が自己情報をコントロールできる社会」の実現をその目的の一つとして掲げていました(5~6ページ)。
だけど、自己情報をコントロールできる社会の実現という目的や理念は、番号法に書かれてない
 しかし番号法の中に、国民が自己情報をコントロールできる社会の実現という目的や理念は、書かれていません。それどころか番号法では、法令で決めれば本人同意なしに個人情報を共有できるようにするなど、自己情報コントロール権を侵害するものになっています。マイナンバー制度が「自己情報コントロール権」の実現というその導入趣旨に合致しているのかは、もっとも重要な争点です。

住基ネット「合憲」の基準に照らしてマイナンバー制度は違憲?!

 この不十分な最高裁判決でも、住基ネットを無条件に合憲としたわけではなく、さまざまな本人確認情報の保護措置が機能していることを合憲判断の前提としています。そのためマイナンバー制度も、この最高裁判決の趣旨を踏まえた制度とする必要を国は説明していました(「社会保障・税番号大綱」17~18ページ、「社会保障・税番号制度における安心・安全の確保」1 右の画像クリックで拡大/縮小)。
住基ネットでは行われなかった、データマッチングや民間利用が行われている
 しかし住基ネットでは「行わないから安全」と国が主張していたデータマッチングや民間利用などが、マイナンバー制度では現実化します2(右の画像クリックで拡大/縮小)。住基ネットが合憲だからマイナンバー制度も合憲などとは、まったく言えません。「社会保障・税番号大綱」も、次のように述べています(18ページ)。
 「番号制度においては、取り扱う個人情報が、住基ネットの本人確認情報(氏名、住所、生年月日、性別、住民票コード等をいう。以下同じ。)よりも秘匿性の高い社会保障・税に関わる情報を中心としており、かつ、住基ネットが行わないこととしているデータマッチングを行うこととするものであることから、一層高度の安全性を確保することが求められる。」

 マイナンバー制度の個人情報保護措置で、この「一層高度の安全性を確保する」ことができているのか、裁判でしっかり解明される必要があります。

Note
*1:内閣官房社会保障改革担当室平成26年2月公表の »「マイナンバー」14ページ
*2:「住基ネットとマイナンバー制度の違い」 投稿者作成
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