マイナンバーはいらない

post by nonumber-tom at 2020.7.6 #286
マイナポイント

手続きめんどう・効果不明・将来危険の
マイナポイントは中止を

原田富弘
 
 7月1日からマイナポイントの申込みが始まりましたが、マイナンバーカードもマイキーIDも普及しない中で、多額の税金を使っても効果は疑問です。もし申請が急増すると、また特別定額給付金のようなトラブルの発生が心配です。
 法的な規制もない中で、ポイント利用やマイキーIDで集められた個人情報がどのように使われるかも不安です。マイナポイントは中止すべきです。
 7月1日からマイナポイントの「申込み」が始まりました。共通番号いらないネットでは、2020年4月発行した「リーフその8 危険で不便なマイナンバー制度」 1 の3ページに、
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手続き面倒・効果不明・将来危険の
マイナポイントはNo!

 ・効果は不明、実現可能性も疑問

 ・めんどうなマイナポイントの手続き

 ・目的は「官民共用キャッシュレス基盤」

 ・中国の監視社会を支える キャッシュレス決済と監視カメラ

●印刷したリーフレットおよびPDFファイルを配布しています。詳しくは こちら

という記事を掲載しています。

マイナポイントの「申込み」とは?

マイナポイントを利用するためには、
  1. 1)マイナンバーカードを取得し
  2. 2)公的個人認証(電子証明書)の設定をし
  3. 3)マイキープラットフォームのID(マイキーID)を取得し=「予約」
  4. 4)キャッシュレス決済事業者を選ぶ=「申込み」(事業者によっては事前の手続が必要)
という、めんどうな手続きが必要です。
 2020年6月までは3)のマイナポイント予約までが可能でしたが、7月からは予約と申込みがいっしょにできるようになります。
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 「申込み」はキャッシュレス事業者を一つ選び、前払いや物品等の購入の際に一人5000円を上限にプレミアムが付きますが、実際にポイントを利用できるのは9月から来年3月までです 2(右のスライドをクリック)。
 対象となる事業者は100以上ありますが 3、7月1日から申込み可能なのは50程度です。一度申し込んだ事業者は、変更できません。そのため総務省は、慎重に選択するよう求めています。

低調な予約状況で、マイナポイントは実施できるのか?

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 マイナポイントの予算は4000万人分です。総務省は「マイナポイントの予約者数が予算の上限に達した場合には、マイナポイントの予約を締め切る可能性があります。」としているため、「先着順」と煽るメディアもあります。
 しかし2020年6月25日時点のマイナンバーカードの取得枚数は約2200万枚で、マイキーIDの設定者は約88万人(カード取得者の約4%)と、4000万人にはほど遠い数字です 4 (右のスライドをクリック)。
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  特別定額給付金のオンライン申請のためにマイナンバーカードの申請が殺到したといっても、カード取得者は4月23日から2カ月間で約135万人増加、マイキーID設定者が約55万人増えた程度です 5(右のスライドをクリック)。
 そのため総務省は当初7~8月としていた申込み期間を延長して、今年度を通して予約・申込手続の支援をするよう市区町村に依頼しています。

めんどうな手続きで利用が広がるか?

 マイナポイントの予約・申込みのためには、パソコンでマイナンバーカードの電子証明書を読み込むカードリーダーを購入して「マイキーID作成・登録準備ソフト」をインストールするか、マイナポイントに対応したスマホにアプリをダウンロードするか、市区町村や事業者で予約・申込み支援を利用するなど、手間がかかります。 来年3月で終了する5000円のポイントのために、どれだけの人がわざわざ手間や費用をかけるでしょうか。
 特別定額給付金10万円のオンライン申請でトラブル 6 が続いてマイナンバーカードや電子証明書がすっかり評判を落としている中で、どの程度利用が広がるかは疑問です。

申請が増えたら市区町村や電子証明書システムは対応できるか?

 ただキャッシュレス事業者の中には、独自に若干のポイントを上乗せしてマイナポイントの予約を集めようとしているところもあります。事業者の働きかけによっては、今後利用が増加するかもしれません。 しかしマイナンバーカードや電子証明書の交付・変更が急増すると、市区町村窓口やJ-LISは特別定額給付金の混乱が再現しかねません。

トラブルが続く電子証明書システム

 とくに公的個人認証の電子証明書を管理しているJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)は、システムの不安定な状態が続いています。 2020年5月1日の特別定額給付金のオンライン申請開始以降、電子証明書の新規発行・更新・暗証番号変更などで市区町村からJ-LISへの接続がたびたびできなくなり、市区町村窓口で住民は長時間の待機を強いられました。
 総務省とJ-LISはあわてて5月8日と5月10日に相次いで自治体に通知を出し、土日や夜間の窓口対応や電子証明書の更新はいったんカードを預かって行うことなどを求めました。

システム能力を増強しても、利用制限を求めている

 5月12日には地方公共団体情報システム機構の理事長がお詫びを公表し7、 「暗証番号の再設定や新規発行・更新が急増し、当機構のシステムの処理能力を超えた負荷がかかったため、市区町村の窓口において混雑や処理遅延が生じた」 と説明しています。
 システムの能力増強等を実施したとしていますがその後も接続は不安定で、2020年5月29日にもJ-LISは住民に、マイナンバーカードの電子証明書の暗証番号再設定、更新、新規発行手続で市区町村窓口に行く際には、なるべく混雑時間帯を避けることや土日夜間の窓口を利用するよう求めています 8

計画より少ない申請で、なぜ処理能力を超えるトラブルが続くのか?

 7月末までに3000万~4000万枚のマイナンバーカードの取得を計画していたにもかかわらず、200万件程度の申請で「処理能力を超えた」とは、どういうことでしょうか。 計画よりはるかに少ない数で「処理能力を超えた」というのは、2016年1月からのマイナンバーカード申請開始のときのトラブルと同じです。申請が増加すると同様のトラブルが発生するおそれがあると、私たちは昨年10月に指摘していました 9
 J-LISは電子証明書の更新の際の失効-発行処理が、もっともシステム負荷がかかると説明しています。トラブルを起こしたのは、今年1月から5年間有効の電子証明書の更新が始まっている最中に、電子証明書を使ったオンライン申請をあえて行った政府の責任です。
 6月15日からまた各地で電子証明書のシステムトラブルが発生し、市区町村の事務が停止していることが報じられています 10。原因は不明なようで、J-LISのサイトに説明はありません。ある自治体で復旧したら別の日に他の自治体が停止するというような不安定な接続状態で、各地の市区町村は電子証明書を即日発行することができない場合等があることを広報しています。

電子証明書システムが改善されるまで、マイナポイントの宣伝は中止を

 本年度の第二次補正予算でJ-LISのサーバーを3倍に増設する予算9億円が付き、2020年7月23日~7月26日に市区町村窓口やコンビニエンスストア等におけるマイナンバーカード関連の手続を停止して増強工事をすることになっています 11
 しかしJ-LISは6月29日にも、マイナポイント申込開始に伴い、混雑時間を避けて来庁するよう協力を求めています 12
 システムトラブルが解決していない状況でマイナンバーカードや電子申請書の申請が増加すると、新型コロナの感染者がまた増加傾向にあるなかで市区町村窓口は三密状態になりかねません。少なくとも電子証明書のシステムトラブルの解消が確認できるまで、申請を控えるよう政府は周知すべきです。

マイナポイントは何のため?

 総務省のサイトでは、「マイナポイント事業は、マイナポイントの活用により、消費の活性化、マイナンバーカードの普及促進、官民キャッシュレス決済基盤の構築を目的とする事業です。」と説明しています 13

状況は変わった。必要性を再検討すべき

 マイナポイントは2019年10月の消費税増税に伴う消費活性化策として、2020年6月まで行われるキャッシュレス還元とオリンピックの終了後の9月から、マイナンバーカードを活用した消費活性化策として実施することを、2019年6月に決定しました。
 新型コロナの流行で経済状況も激変しオリンピックも1年延期された中で、2500億円の税金を使って実施することにどんな効果があるか、再検討もしないまま実施しようとしています。

マイナンバーカードの普及ありきの姿勢が混乱を招く

 2019年6月4日、政府は「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」14 を決定し、2023年3月までにほとんどの住民がマイナンバーカードを保有することを目指しています。
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 普及策の柱がマイナポイントとマイナンバーカードの保険証利用で、2020年3月までに公務員にカードを取得するよう求めたり、市区町村に「交付円滑化計画」を作成させたりしてきました。しかし2020年3月時点のマイナンバーカードの普及率は16%、公務員の取得率も国家公務員が約58%、地方公務員が約35%にとどまっています 15(右のスライドをクリック)。
 そこで特別定額給付金の支給に便乗して、マイナンバーカードを普及させようとオンライン申請を行ったために、市区町村は大混乱に陥りオンライン申請を中止・停止する市区町村が続出しました。給付が遅れている大都市の中で例外的にスムーズに給付できた札幌市は、オンライン申請の不具合を予想し早期に郵送申請書類を送付したことでオンライン申請が1%未満だったおかげと報じられています(朝日新聞2020年6月28日朝刊)。
 しかし政府は普及ありきの姿勢を見直すこともなく、2020年6月23日に「マイナンバー制度および国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」を設置し、預貯金口座へのマイナンバー付番、児童生徒の健康・医療情報や学習履歴管理にマイナンバー利用、運転免許証や在留カードなど各種カードのマイナンバーカードとの一体化など、さらに普及をごり押ししようとしています。

「官民キャッシュレス決済基盤の構築」で何をしようとしているのか?

 政府がマイナポイントにこだわるのは、「官民共同利用型キャッシュレス決済基盤」を構築したいからです。2019年9月30日に設置された「マイナポイント活用官民連携タスクフォース」では、自治体施策推進WGで官民共同利用型キャッシュレス決済基盤を決済事業者や自治体、有識者などで検討しています。
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 交通(タクシー補助)、子育て支援(出産祝い金)、移住支援(移住支援金)、高齢者サポート、健康づくりが例示 16 されていることを見ると、行政からの給付をポイントに替えたり、サービス提供情報を官民で共有しようとしているようです。プライバシーや行政サービスのあり方に大きな影響が心配されますが、検討状況は明らかにされていません。
 官民のポイント情報が結合するのは、中国でキャッシュレス決済の情報などを利用して個人をランク付けして奨励と懲罰に活用している例を見ても大変危険です。日本でも2019年にTポイントカードなどポイントサービスの会員情報、ポイント履歴、レンタル情報などが、本人には極秘扱いで警察に提供されていたことが問題になりました。
 

法的な規制のない個人情報の扱い

マイキーIDと電子証明書のシリアル番号で個人情報を管理

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 マイナポイントは、総務省が設置したマイキープラットフォームと自治体ポイント管理クラウドを利用しています。ただ既存の「自治体ポイント」とマイナポイントは、使用を別に管理することになっています。
 マイキープラットフォームでは自治体ポイントやマイナポイントの他に、図書館カードなど自治体発行の各種カードをマイナンバーカードと一体化したり、ボランティアなど地域活動への参加管理など、さまざまな住民情報をマイキーIDで管理します 17(右上のスライドをクリック)。
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 さらにマイキーIDは、マイナンバーカードに内蔵の電子証明書(JPKI)の発行番号(シリアル番号)とひも付けて管理します 18(右のスライドをクリック)。電子証明書のシリアル番号は、マイナポータルや健康保険のオンライン資格確認などさまざまな制度で、本人を識別特定するコードとして使用されるだけでなく、民間でも利用が認められています。

番号法に規定のないマイキーIDや電子証明書のシリアル番号利用

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 マイキープラットフォームでは図書の貸出し履歴や物品の購入履歴等の情報は保有しないとしていますが、番号法ではマイキーIDや電子証明書のシリアル番号の利用について規定はありません。国は法令で利用が制限されているマイナンバーの代わりに民間も含めて幅広く利用が可能と、電子証明書のシリアル番号をマイナンバーの代わりに「脱法的」に本人識別コードとして利用することを推進しています 19(右のスライドをクリック)。

 個人情報の共有と利用の仕組みが、法的な根拠もないまま作られようとしていることは許せません。

Note

*1 共通番号いらないネット キャンペーンリーフレット No.8 「危険で不便な マイナンバー制度」

*2 首相官邸第7回デジタルガバメント閣僚会議 「マイナンバーカード及びマイナンバーの利活用の促進について」 2020年6月5日、p.4

*3 総務省サイト「マイナンバーカードでマイナポイント」 「対象となるキャッシュレス決済サービス検索」

*4 「マイナンバーカードを活用した消費活性化策における各種数値一覧」2020年6月25日版:総務省が自治体に提供している説明資料より抜粋

*5 「マイナンバーカードを活用した消費活性化策における各種数値一覧」2020年4月23日版:総務省が自治体に提供している説明資料より抜粋

*6 共通番号いらないネット 「給付金で窓口大混雑。申請は郵送で。マイナンバーカードの交付は当面中止を。」 2020年5月12日、参照

*7 地方公共団体情報システム機構 「【お詫び】マイナンバーカードの電子証明書関係手続の混雑と処理遅延について」 2020年5月11日

*8 地方公共団体情報システム機構 「マイナンバーカードの電子証明書の暗証番号再設定、更新、新規発行手続について」 2020年5月29日更新

*9 共通番号いらないネット 「Q&A マイナポイントなんかいらない! [2]マイナポイントの導入に反対する」 原田、2019.10.12

*10 日経クロステック 「マイナンバーのシステムに障害 電子証明書の更新など」 2020年6月15日

*11 地方公共団体情報システム機構 「マイナンバーカード発行増に対応するシステム増強メンテナンスのご案内」 2020年6月23日更新

*12 地方公共団体情報システム機構 「マイナポイント申込開始に伴う電子証明書のパスワードのロック解除、発行等の手続について」 2020年6月25日更新

*13 総務省サイト「マイナンバーカードでマイナポイント」 「事業概要」

*14 首相官邸 「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」 2019年6月4日、デジタル・ガバメント閣僚会議

*15 首相官邸 「マイナンバーカード及びマイナンバーの利活用の促進について」 2020年6月5日、第7回デジタル・ガバメント閣僚会議 資料1、p.1

*16 総務省 「マイナポイントによる消費活性化策について」 2019年12月24日、自治行政局地域力創造グループマイナポイント施策推進室作成、第3回マイナポイント活用官民連携タスクフォース 資料1 p.23

*17 内閣官房・内閣府 「マイナンバー 社会保障・税番号制度 概要資料」(令和2年5月版) 2020年5月、p.40

*18 総務省 自治体ポイントナビ 「マイキープラットフォームとJPKI連携」 「マイキープラットフォーム構想の概要」、4枚めのイラスト

*19 内閣官房・内閣府 「マイナンバー 社会保障・税番号制度 概要資料」(令和2年5月版) 2020年5月、p.27