マイナンバーはいらない

post by 40kara at 2015.5.18 #14
6つの疑問

共通番号(マイナンバー)法改正への6つの疑問

まだ番号法が施行もされないうちに、政府は番号利用拡大法案を国会に提出しました。その狙いは何なのか、問題点を6点にしぼり、わかりやすい資料をつくりました。資料のpdfファイルをダウンロードできます。知人・友人に手渡すリーフレットとして、集会・学習会等で配布する資料として、議会の質問づくりや自治体に対する質問書づくりの資料として、どんどん活用してください。

共通番号(マイナンバー)法改正への6つの疑問

2015年3月 共通番号・カードの廃止をめざす市民連絡会

 政府は3月10日、共通番号(マイナンバー)の利用拡大をねらう番号法改正案を国会に提出しました。私たちは番号制度に対して、国家による管理・監視の強化と基本的人権の侵害、個人情報の大量漏えいや成りすまし被害の発生、医療・社会保障の選別的な利用抑制と負担の強化、地方自治と自己コントロール権の侵害などの危険を指摘し、反対してきました。私たちは利用拡大の法改正提出に反対し、撤回を求めます。
1 なぜ国会答弁に反して番号制度実施前にも関わらず利用拡大するのか?
 共通番号制度は、本年10月に住民登録のあるすべての者に個人番号が、事業者には法人番号が通知され、2016年1月から行政手続や就職、法定調書提出などの際に個人番号の記載が義務づけられるとともに個人番号カードが交付され、2017年1月からは個人番号を付けた個人情報の共有のための情報提供ネットワークシステムと「マイ・ポータル」が稼働する予定です。
 しかし政府は法施行前にも関わらず、預貯金へのマイナンバーの付番や健診情報等への利用拡大をしようとしています。さらに戸籍への付番も2016年の法制審諮問を目指して急ピッチで検討されています。番号法が審議された2013年第183国会では、政府は預貯金への付番に慎重な答弁を繰り返していました。また番号法附則第6条で法律施行後3年を目途とした個人番号の利用拡大等が規定されていることについても、3年間の施行の状況をみて知見を集めて検討を加え必要があると認めるときには拡大するもので、拡大が既定方針ではないと答弁していました。にもかかわらずまだ施行もされないうちに利用を拡大することは国会答弁を否定するものです。
2 準備が遅れ実施の延期が必要なのに、なぜ急いで利用拡大するのか?
 共通番号制度実施を前にして準備の遅れがあらわになっています。国はいまだに番号法に規定された利用事務の省令も整備できていません。そのため自治体では準備が遅れているだけでなく、実施を控えてDV被害者への個人番号通知方法や住民登録のない住民へのサービス提供などの課題も顕在化しています。さらに民間事業者では番号制度への対応が必要であることさえ知られておらず、ほとんどの事業者は準備すらはじめていない実態が報じられています。社会基盤である番号制度が準備も不十分なまま実施されれば、社会生活すべてに大きな影響が出ます。
 番号制度を7割が知らないという内閣府の調査結果を受けて、政府はあわててPRをはじめていますが、「実施に間に合うのか」「このまま実施したら漏えいなどが発生するのではないか」「こんな制度だとは知らなかった」などの声が広がっています。法案は共通番号制度の社会的認知が低いうちになし崩しに利用を拡大しようとしているのではないかという、不信と不安を大きくするものです。
3 預貯金への付番は不公平の拡大、個人番号の悪用、国民生活監視の強化に?
 番号制度は所得把握により税と社会保障の公平をはかる目的だと説明されてきましたが、事業所得などはわからず不完全な所得把握しかできず、預貯金や不動産、海外資産など資産も把握できず、私たちは公平性確保にはならないと批判してきました。
 今回政府は預貯金口座に個人番号(マイナンバー)を付番する目的として、ペイオフのための預貯金額の合算や社会保障制度における資力調査と税務調査のために預金情報を照合・名寄せ可能にし、国が預金情報を把握できるようにすると説明しています。当面、新規口座開設に限定し任意で個人番号の告知を求めるとしていますが、いずれ告知を義務化しようとしています。
 しかしすでにある口座すべてに付番することは不可能であり、不完全な預金情報の把握にしかなりません。また資産のうち預貯金だけしか把握できません。その結果、把握しやすいところからの徴税の強化や、社会保障における調査や税務調査が不公平になる可能性が指摘されています。
 また預金口座への付番は個人番号の民間での流通を拡大し、不正な収集記録と番号を利用したデータマッチングやデータベースの作成など、個人番号の悪用や漏えいにつながる危険を増大させます。
 さらに預貯金の履歴をみれば個人の生活状況の把握は容易になり、国家による監視が強化されます。そのため番号制度に賛成する論者でさえ預貯金への付番に対しては「普通の納税者の懐に直接手を突っ込むような徴税国家になることだけは避けなくてはなりません」と指摘していたほどです。
 預貯金口座への付番は部分的な資産把握しかできず、民間へのなし崩し利用拡大や漏えい被害、個人の生活状況の把握によるプライバシー侵害をもたらすものです。

図1 マイナンバーの利用範囲の拡大等について

» 出典:2015年2月16日開催 首相官邸 IT総合戦略本部 第8回マイナンバー等分科会 【資料2】個人情報の保護に関する法律 及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律案(概要)(内閣府大臣官房番号制度担当室提出資料)3ページ

4 医療分野での利用のなし崩し拡大と健康情報の国家管理を意図?
 医療・健康情報を番号制度で管理することについては、プライバシー侵害への不安が強く、番号法制定時点では利用事務から外し、医療分野についての個人情報保護措置を整備した上で利用を検討することになっていました。その後検討が続けられていますが、未だに保護措置も利用の内容も仕組みも決まっていません。
 医療分野では、6課題での利用が検討されています(1.医療機関・介護施設等での診療情報の連携、2.本人への健康医療情報の提供・活用 3.健康・医療の研究分析 4.医療保険のオンラインでの資格確認 5.保険者間の健診データの連携 6.予防接種の履歴管理)。今回の改正案は検討課題のうち批判の強い医療機関が関わらずに、行政や保険者の情報連携で可能な特定健診データや予防接種履歴についてだけ先行的に利用拡大しようとするものです。しかし特定健診データも医療プライバシー情報であり、医療分野の個人情報保護措置を整備しないままなし崩しに利用拡大することは許されません。

図2 「医療等分野での番号の活用に関する議論の全体像(中間まとめ)」

» 出典:2014年12月10日 厚生労働省 医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会「中間まとめ概要」2ページ

 今回、特定健診・保健指導に利用を拡大し、被保険者が転居や就職・退職により保険者を異動した場合でも、マイナンバーを活用して特定健診等のデータを保険者間で円滑に引き継ぎ生涯にわたり追跡可能にし、過去の健診情報等の利用ができるようにしようとしています。これは出生前から死亡まで生涯の健康情報を国家が一元的に管理する仕組みの第一歩であり、戦争ができる国づくりに必要な徴兵・徴用を可能にする社会基盤にもなるものです。
 また特定健診(「メタボ健診」)は、未受診者やメタボ該当者を減らすことができない健保組合に後期高齢者医療制度への負担金を増加させるペナルティーが課せられており、蓄積した健診データとレセプトデータをデータマッチングして医療費のかかる個人に対する「保健指導」が強化され、医療費抑制と健康の国家管理に使われる可能性もあります。
 さらにマイ・ポータルを民間も利用する電子私書箱と一体で運用することが検討されており、健康管理の自己責任化と医療健康情報の民間開放による商業的利用が進められようとしています。特定健診と保健指導データへの個人番号付番はその基盤になります。マイ・ポータルの利用は任意とされているものの事実上利用を強いられ、医療の抑制や保険加入の選別、個人情報の漏えいによる差別的取扱いや消費者被害の拡大などのリスクが高まることになります。
5 税と社会保障での利用から逸脱する利用範囲の拡大ではないか?
 改正案では地方公共団体からの要望として、従来利用が規定されていた低所得者向け公営住宅の管理に加えて、中所得者向け特定優良賃貸住宅の管理にも利用を拡大しようとしています。
 番号制度は当面、税・社会保障・災害対策の分野に利用を限定すると説明して番号法は成立しました。成立した法の利用事務の中に、この利用分野とは言えない公営住宅の入居者管理が入っているとの指摘に対して、政府の担当者は公営住宅も低所得層に対する施策であり逸脱していないと説明してきました。しかし今回、中所得者向け特定優良賃貸住宅の管理にも利用を拡大することで、税・社会保障・災害以外の分野にもなし崩しで利用が拡大されようとしています。
 さらに地方公共団体が条例を定めて独自にマイナンバーを利用する場合に、情報提供ネットワークシステムを利用した情報連携を可能にすることで、自治体からなし崩しに利用拡大をはかろうとしています。しかし自治体は国の準備の遅れのために番号通知と利用開始までに準備を間に合わせることさえ苦慮している状態で、プライバシー保護やサービス提供の検討など住民の基本的人権を守る措置の実施にこそ力を注ぐべきであり、利用拡大を求めるべきではありません。
6 なぜ個人情報保護法改正と一体で番号利用拡大法案を提出するのか?
 今回政府は、個人情報保護法改正と一本の法案で番号制度の利用拡大を決めようとしています。特定個人情報保護委員会を個人情報保護委員会に改組するなどを除いて、両法案を一体で改正しなければならない理由はありません。にも関わらず利用拡大まで一体で提案することは、議論を個人情報保護法改正と分散させ、番号法改正についてはできるだけ議論せずにこっそりと決めようとする意図を感じざるをえません。多くの問題がある番号法の利用拡大は、個別に審議すべきです。

図3 「個⼈情報の保護に関する法律 及び ⾏政⼿続における特定の個⼈を...」

» 出典:2015年2月16日開催 首相官邸 IT総合戦略本部 第8回マイナンバー等分科会 【資料2】個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律案(概要)(内閣府大臣官房番号制度担当室提出資料)2ページ

 今回の個人情報保護法案は、民間事業者が個人情報の利活用に躊躇するという「利活用の壁」を打破し、利活用を促進するための環境整備を目的としています。そのために特定の個人を識別することができないように個人情報を加工した「匿名加工情報」の規定を新設し、提供・利用を容易にしようとしています。
 しかし個人を識別し同一人の情報であることを確認するための社会基盤である共通番号制度が実施され利用が拡大すれば、その強い本人識別機能によって従来であれば同一人か不明の情報も識別され、匿名加工をしたつもりの情報から個人が特定される可能性も飛躍的に高まります。個人情報保護法改正の審議にあたっては、共通番号制度が実施された場合にどのような影響があるのかを十分考慮すべきではないでしょうか。
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