マイナンバーはいらない

post by nonumber-tom at 2020.06.7 #285
マイナンバー 自民党マイナンバーPT提言 新型コロナ対策 口座番号

マイナンバーと口座情報のひも付け
拙速な立法化は混乱を深めるだけ

 6月17日の国会会期末を前に、緊急時の給付金の迅速な給付を理由に、銀行口座にマイナンバーをひも付ける議員立法の動きが出ています。しかしマイナンバーを付けても迅速かつきめ細かな給付の早期実現にならないばかりか、かえって市区町村の負担が増えることが懸念されます。
 マイナンバーカードの普及ありきの姿勢で拙速に立法化するのでなく、まず給付の方法について自治体を交えて検討することが必要です。

マイナンバーと口座情報をひも付けても、迅速な給付は実現しない

 自民党政務調査会マイナンバーPTは5月19日、
  • ・緊急時等に国がマイナンバーを利用した迅速かつきめ細かな給付を実現するために、本人同意で預貯金口座を登録できる議員立法の制定
  • ・マイナンバーの口座紐づけの義務化を目指し令和2年中に結論を得るよう政府に要請
などの提言をまとめました1
 6月4日に自民党・公明党・日本維新の会が議員立法の共同提出で合意し他党にも協議を呼びかけ、国民民主党は6月4日にマイナンバーの活用を検討するPTを開催し緊急時の給付用にマイナンバーと個人の預貯金口座の連結の義務付けを提言する方向と報じられています。ただ各党とも、全口座にマイナンバーの付番を義務づけることには慎重な姿勢のようです。
 しかしマイナンバーカードは5月末時点でも、8割の人が申請していません。それはマイナンバー制度に疑問・不安を抱いているからです。この状態でマイナンバーと口座情報をひも付けても、迅速な給付の早期実現にはなりません。

特別定額給付金のオンライン申請混乱の原因の検証が先

 特別定額給付金のオンライン申請では全国に混乱が広がり、新型コロナの外出自粛にも関わらず市区町村の窓口は大混雑して「三密状態」になりました2。  その結果、オンライン申請を中止停止した市区町村は、68自治体に及びます(6月6日現在。検討中等を含む) 3

マイナンバー普及ありきの姿勢が混乱の原因

 この混乱にはさまざまな原因があります。しかし自民党PT提言では、マイナンバーカードが普及せず使われていなかったことや口座情報の記入ミスが多いことに原因を矮小化して、マイナンバーカードの普及やマイナンバーと口座情報のひも付けを推進しようとしています。
 しかし混乱の原因は、マイナンバーカードの保有率が16%にもかかわらず、普及のためにマイナンバーカードを使ったオンライン申請を推奨した政府のマイナンバー普及ありきの姿勢にあります4
 オンライン申請により市区町村は、二重申請のチェックや申請者と受給権のある世帯主の不一致、申請された世帯情報と住民基本台帳との照合などが大きな事務負担になっています。給付を世帯単位から個人単位に変えなければ、口座にマイナンバーを付番しても負担は変わりません。

制度の違いをふまえないマイナンバーの利用論

 アメリカなどが申請なしに給付していることを例に、マイナンバーの利用がよく語られます。しかしこれは、マイナンバーの問題ではなく税制の違いです。
 多くの国では税務当局に確定申告し還付のための振込口座を伝えているのに対して、日本は雇用労働者の大部分が源泉徴収と年末調整で納税しているために税務当局が振込口座を把握していないためです。  マイナンバーと口座情報をひも付ければ、解決する問題ではありません。

自民党PT提言では、かえって非効率になる

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 議員立法の内容は、報道や自民党の「緊急時給付迅速化法案の概要」の図(右のスライド:脚注からダウンロード可能です)5 によれば、
  • ・氏名、生年月日、住所、マイナンバー、電話・メール、預金口座等、その他を
  • ・市区町村では給付名簿情報として、マイナポータルでは口座名簿情報として、申出により任意で登録し
  • ・マイナポータルから市町村に、記載内容の正確性確保と事務処理の効率化のために提供する
という仕組みのようです。
 マイナポータルでマイナンバーや口座情報等を登録することは、マイナンバー制度の個人情報保護措置の根幹を損ないます6
 しかし問題はそれだけではありません。

マイナンバーを利用すると、市区町村の事務が増える

 振込口座は常に変わる可能性があり、いつあるかわからない給付のために定期的に口座情報の申請を求めることは困難です。またマイナポータルと市区町村でそれぞれ口座情報を登録すると、その間で違いが生じてかえって確認の負担が増えます。
 さらにマイナンバーを付番することで、市区町村ではマイナンバー法令の規定により、マイナンバーの提供を受ける際の本人確認義務やマイナンバーが記載された書類の安全管理義務が生じて、かえって事務が増えます。また住民情報にマイナンバーを付番すると、自治体内で共有するためには独自利用条例の制定が必要になり、かえって情報共有しにくくなります。

マイナンバーを利用しない方が、きめ細かな給付が実現する

 市区町村では独自の住民番号で住民登録者を管理するとともに、住民登録がなくても行政サービスの対象となる住民も含めて「宛名番号」で把握しています。マイナンバーがなくても、支払用の口座を管理することは可能です。  住民登録を前提としたマイナンバーの利用にこだわれると、今回行った住民登録のない「無戸籍者」への給付やDV等被害者への特例的な対応、さらに住民登録を喪失した困窮者への対応など、柔軟な対応も困難になります。

まずは市区町村と給付方法の検討を

 「緊急時給付迅速化法案の概要」では、附則で給付金受給の方策などを検討することになっています。マイナンバーの利用だけ先に決めて給付方法はこれから検討するという、本末転倒なやり方こそが現場の混乱につながります。
 国会に提出されるまで法案内容がわからない議員立法では、地方自治体などからの意見の反映もできません。円滑な給付のためには、今回の混乱を教訓に、拙速な実施は避けなければなりません。
 議員立法などで上からマイナンバーの利用を押しつけるのでなく、まず実務を担う市区町村と給付方法の検討から始 めるべきです。

次は銀行口座のマイナンバーの付番義務づけ

 銀行口座への付番には、多くの人が不安を感じています。産経新聞とFNNの合同世論調査では、マイナンバーと銀行口座のひも付けの義務化に賛成が33.9%、反対が55.2%だったと報じられています7
 しかし政府は、高市総務大臣も菅官房長官もすべての預貯金口座へのマイナンバー付番に意欲を示し、6月5日のデジタル・ガバメント閣僚会議では本年中に預金付番の在り方について結論を出すとしています8
 自民党PT提言も、義務付け法案の来年度の国会提出を求めています。それだけでなく、義務付けの目的として犯罪対策やテロ資金対策も加えるよう求め、マイナンバー制度を犯罪捜査や治安対策のために本格的に利用しようとしています。これでは、マイナンバー制度に対する不安が強まるばかりです。

Note

*1 自由民主党政務調査会マイナンバーPT » 『マイナンバー制度等の活用方策についての提言』 2020.5.19。原出典は、自民党国会議員の個人サイト(https://www.shindo.gr.jp/cms/wp-content/uploads/2020/05/19_mynumber.pdf)。

*2 市区町村窓口の混乱については、別記事 » 「給付金で窓口大混雑。申請は郵送で。マイナンバーカードの交付は当面中止を。」 参照。

*3 オンライン申請を中止停止した市区町村については、別記事» 「マイナンバーカードによる特別定額給付金の オンライン申請の中止を求める緊急要請書」 参照。このページに収録されているオンライン申請を停止中止した市区町村の一覧は、本サイトのいくつかの関連記事にも収録されています。

*4 前出注2「給付金で窓口大混雑。申請は郵送で。マイナンバーカードの交付は当面中止を。」参照。

*5 PDFファイルのダウンロードはこちらから » 「緊急時給付迅速化法案の概要」。この概要のスライドは、自民党国会議員の動画(https://www.youtube.com/watch?v=BYxGjFITl-4)の画面上から、筆者がクリップして作成した。
 なお、2020年6月8日、この法案は議員立法として衆参両院に法案が提出されています。» 「特定給付金等の迅速かつ確実な給付のための給付名簿等の作成等に関する法律案」全文(衆院Webサイト:第201国会衆法19号)

*6 このテーマについては、別記事 » 「迅速かつきめ細かな給付にならず、マイナンバー制度を改悪する自民党提言に反対します」 も参照されたい。

*7 産経新聞 » 「自民、現金給付にマイナンバー活用」 2020.6.1

*8 首相官邸IT総合戦略本部 デジタル・ガバメント閣僚会議(第7回)配布資料 » 「マイナンバーカード及びマイナンバーの利活用の促進について」 2020.6.5, p.6

特別定額給付金オンライン申請停止等自治体一覧
(2020.6.14現在 82自治体)

<北海道>

» 北見市 5月24日をもって停止

» 恵庭市 5月29日をもって終了

» 美深町 6月7日で終了

<青森県>

» 青森市 5月27日で終了

» 弘前市 6月7日をもって受付終了

<秋田県>

» 秋田市 5月29日をもって終了

» 羽後町 6月5日まで

<福島県>

» 郡山市 5月29日で終了

<茨城県>

» 桜川市 5月30日から中止

» 利根町 6月13日から中止

<栃木県>

» 宇都宮市 5月29日23時59分をもって一時中断

<埼玉県>

» さいたま市 6月12日23時59分をもって受付終了

» 熊谷市 6月15日23時59分をもって当面休止

» 川口市 6月17日23時59分をもって停止

» 志木市 5月29日で終了

» 新座市 5月29日以降は一時的に中止

» 三郷市 5月30日から7月30日まで休止

» 宮代町 6月9日現在中止

<千葉県>

» 千葉市 6月4日までで終了

» 松戸市 6月12日をもって終了

» 旭市 5月22日午前11時59分をもって一時停止

» 習志野市 5月31日で終了

» 市原市 5月31日24時00分をもって終了

» 流山市 6月10日をもって終了

» 印西市 6月30日24時00分をもって終了

» 東庄町 5月31日受付終了

» 芝山町 6月30日までで終了

<東京都>

» 中央区 6月14日23時59分まで

» 江東区 6月7日午後11時59分で休止

» 世田谷区 6月12日23時59分をもって終了

» 杉並区 5月31日午後11時59分で終了

» 荒川区 5月25日から停止

» 足立区 5月31日で休止

» 八王子市 5月25日午前8時30分から停止

» 武蔵野市 5月30日から当面の間停止

» 府中市 5月30日から中止(5月29日まで受付)

» 調布市 5月20日午前9時から6月下旬まで停止

» 町田市 5月29日から7月31日まで休止

» 小金井市 6月6日から停止

» 国分寺市 5月26日から停止

» 福生市 5月21日から一時停止、5月25日から再開

» 東久留米市 6月1日午後11時59分から6月30日まで一時停止

» 稲城市 6月8日正午から停止

<神奈川県>

» 川崎市 6月11日午前0時に終了

» 厚木市 5月31日まで受付

<石川県>

» 宝達志水町 6月12日をもって中止

<山梨県>

» 笛吹市 5月22日をもって終了

<静岡県>

» 袋井市 5月25日から6月30日まで一時休止

» 湖西市 5月31日をもって停止

<愛知県>

» 江南市 (申請が少ない場合)、申請受付を停止することがある

<三重県>

» いなべ市 5月31日で終了

<滋賀県>

» 大津市 6月7日をもって受付終了

» 彦根市 6月15日午前0時をもって終了

» 湖南市 5月25日午前0時受付終了

» 日野町 6月15日午前0時受付終了

<京都府>

» 宇治市 5月27日で一旦中止

» 亀岡市 5月31日をもって一時休止

<大阪府>

» 大阪市 6月10日をもって終了

» 八尾市 5月30日で終了

» 泉佐野市 6月30日17時15分をもって中止

» 羽曳野市 6月8日から中止

» 東大阪市 5月27日をもって中止

<奈良県>

» 大和郡山市 6月1日17時00分で終了

» 橿原市 5月24日23時59分で終了

» 河合町 5月19日まで受付

<島根県>

» 出雲市 5月30日から当面の間停止

<岡山県>

» 岡山市 5月24日をもって終了

» 倉敷市 5月31日終了

» 笠岡市 5月24日をもって終了

<広島県>

» 福山市 5月27日をもって中止

<山口県>

»下関市 6月30日をもって終了

<香川県>

» 高松市 5月24日をもって中止

<高知県>

» 高知市 5月19日をもって終了

<福岡県>

» 直方市 6月7日23時59分をもって終了

» 小郡市 5月29日までで終了

» 大野城市 5月31日で終了

» 遠賀町 5月31日までで終了

<長崎県>

» 大村市 6月1日から一時休止

<大分県>

» 佐伯市 6月12日で終了

<宮崎県>

» 宮崎市 6月11日受付終了

<沖縄県>

» 名護市 5月27日をもって停止

» 読谷村 6月2日をもって停止

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