
マイナンバー利用拡大法案に対し議員要請
議員要請
社会保障・税・災害対策以外への利用拡大は合憲か
その直前の3月9日、最高裁判所はマイナンバー違憲差止訴訟の仙台・九州・名古屋訴訟について、マイナンバー制度を合憲と判決しています6。
この判決は、プライバシー権について半世紀以上前の憲法解釈を踏襲して自己情報コントロール権など現代的なプライバシー解釈を認めず、マイナンバー制度の下で発生している様々な漏洩やひも付け誤りなど制度の不備を認めない不当な判決でしたが、それでも次のようにマイナンバー制度の危険性を指摘していました。
この判決理由に改正番号法は反します。しかし最高裁は、法改正後の金沢・大阪・東京・神奈川の各訴訟の上告を棄却・不受理とし、番号法改正に対する憲法判断を回避してきました7。
違憲の疑いがあるまま、なし崩しに利用拡大していくことに、私たちは疑問を持ちます。
マイナンバーの利用が可能な国家資格等の事務を拡大
国家資格オンライン・デジタル化のシステム構成図10

*右クリックで別ウィンドウ(タブ)に表示してフルサイズで見ることができます。
国家資格の申請は、マイナンバーの提出がなくても受理する
デジタル庁も「一般的には、申請者がマイナンバーの提出を拒むことのみをもって、直ちに国家資格等の登録を拒否するといったことはない」と説明しています。
また「国家資格等情報連携・活用システム」についても、利用を義務付ける規定はなく、「あくまでもお願いをしながら、それぞれの判断で活用いただくもの」とデジタル庁は説明しています。
「国家資格等情報連携・活用システム」は何が問題か?
しかし国家資格を一元管理することにより、<有事>の際には国策に医療・土木建築・機械技術・情報通信などの有資格者を徴用・動員することが、システム的に容易になります。そもそもこのシステムは、新型コロナ下で医療現場を離れている看護職をコロナ対策になかなか動員できなかったことから、「骨太の方針2020」がITを活用した資格保有者等の掘り起こしを求めてつくられました。
さらに「国家資格等情報連携・活用システム」と様々な個人情報管理システムをひも付けることで、たとえば経済安保法の適性評価(セキュリティ・クリアランス)や就労歴、健康状況、経済状況などをデータマッチングすることによる人権侵害も危惧されますが、その規制も不明です。デジタル庁は「各資格管理者がこれまで保有してきた資格者に関する情報が、国家資格等情報連携・活用システムにそのまま連携して移るだけで、従来の情報の範囲が広がるわけではない」「資格管理者ごとにデータベースを論理的に分離し、厳格なアクセス制御を行う」ので問題はないと説明していますが、データマッチングの危険性をまったく考慮しない説明です。
「国家資格等情報連携・活用システム」で管理する資格情報は、資格保有者のスマホ等に表示する他、マイナポータルのAPI11を利用して民間事業者にも提供されます。その際、マイナンバーカードで「同意」する操作がありますが、同意しないと手続ができないのでは「有効な同意」とは言えません。国会審議では保育士や看護師などの有料職業紹介や隙間バイト紹介に情報提供されるのではないか問題になりましたが、デジタル大臣は「国家資格等保有者の情報は、現在、マイナポータルAPIで取得可能な情報には含まれていません」と答弁しただけです。
申請などでマイナンバーの提供やマイナンバーカードの使用は義務ではないとはいえ、就労の際にマイナンバーカードの利用を強いられて拒めない現実もあります。資格保有者が「国家資格等情報連携・活用システム」で管理されないことを求める権利も保障されていません。
外国人の出入国・在留管理にマイナンバー制度を利用
その中には、出入国在留管理庁長官の事務として「出入国管理及び難民認定法による外国人の出入国又は在留の管理に関する事務であって主務省令で定めるもの」が追加されます(法別表31の4)。
現行法では法務大臣の事務として「外国人の在留資格に係る許可に関する事務であって主務省令で定めるもの」が利用事務となっていますが、主務省令には規定されていないようです12。
改正案の概要説明では追加される事務が「在留カードの交付等」となっていますが、法別表に追加される「出入国又は在留の管理に関する事務」や現行法で法務大臣の事務である「在留資格に係る許可に関する事務」の内容と、その事務でマイナンバー制度をどのように利用するのか、衆議院の審議では明らかになりませんでした。
ただ木村伸子委員の質問に対しデジタル庁は、在留カード等の交付に関する事務は「外国人の在留カードに記載されている在留資格等に関する情報をマイナンバーとひもづけて管理し、これらの情報を必要とする入管庁以外の関係機関に提供することで、外国人が当該関係機関に申請等を行う際に在留カードの写しの提出が不要になる」と説明しています。
マイナンバー制度による関係機関による情報連携が、2024年の入管法等改正で導入された「永住許可制度の適正化」の調査等に利用されるのかどうか、参議院での審議に注目します。
武力攻撃事態等による国民保護にも利用拡大
衆議院の審議では、「避難住民の情報をマイナンバーとひも付けて管理することで、より確実かつ効率的な避難住民の情報の管理が可能となり、いっそう迅速で的確な避難や救援の実施を図ることが可能となる」と説明しています。
武力攻撃事態等への対応という「戦争準備」にまでマイナンバー制度の利用が広がることには驚かされます。
今回の利用拡大事務の政策決定プロセスについてデジタル庁は、昨年6月に閣議決定されたデジタル社会の実現に向けた重点計画13に基づき、各府省庁に対してマイナンバーの利用可能性の悉皆的な調査を行い、行政事務の効率化や国民の利便性の向上につながるもので、各府省庁でマイナンバーの利用意向があるものについて利用可能事務に追加した、と説明しています。
しかしこの武力攻撃事態等による国民保護へのマイナンバー制度の利用は、昨年度のデジタル化重点計画には載っていません。いま沖縄では自衛隊の強化ともに、国民保護法により先島地域(与那国町、竹富町、石垣市、多良間村、宮古島市)の島民約12万人を九州に分散避難させる住民避難計画が本格化しています。今回の法改正はこのような動きを効率化するために追加されたのでしょうか。 どこまでマイナンバー制度の利用が広がるのか、何にどのように使おうとしているのか、国会はしっかりチェック機能を果たすべきです。
*1 » 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律及び住民基本台帳法の一部を改正する法律案 デジタル庁
*2 » デジタル庁による同上法律案の概要説明 デジタル庁
*3 »「マイナンバーの利用拡大には慎重な審議をお願いします」 共通番号いらないネット
*4 » 衆議院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会ニュース 衆議院
*5 » 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律案 デジタル庁
*6 » マイナンバー(個人番号)利用差止等請求事件最高裁第一小法廷判決 マイナンバー違憲九州訴訟に対する最高裁の2023年3月9日の判決。なお、九州訴訟における上告理由書およびこの判決の全文を、» こちら でダウンロード できます(共通番号いらないネットWebサイトで提供)。
*7 » 各地のマイナンバー訴訟 地域別 判決一覧 金沢・大阪・東京・神奈川の各訴訟に対する「上告棄却・上告不受理決定」、大阪訴訟の原告弁護団声明(共通番号いらないネットWebサイトで提供)
*8 » デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律の概要 デジタル庁
*9 »「社会保障に係る資格におけるマイナンバー制度利活用に関する検討会報告書」 厚生労働省
*10 » 国家資格オンライン・デジタル化のシステム構成図 p.10。デジタル庁「国家資格等オンライン・デジタル化の開始について」より
*11 » 「マイナポータル 自己情報取得API」 デジタル庁「マイナポータルAPI 仕様公開サイト」
*12 » 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律別表の主務省令で定める事務を定める命令 e-GOV 法令検索サイト
*13 » デジタル社会の実現に向けた重点計画 デジタル庁







