マイナンバーはいらない

post by nonumber-tom at 2025.5.2 #394
マイナンバーの利用拡大 国家資格管理 在留資格管理 武力攻撃事態 国民保護社会保障・税・災害対策

マイナンバー利用拡大法案に対し議員要請

●マイナンバー利用拡大法案は2025年5月16日に可決成立しました。この記事は法案審議中の5月2日に書かれましたが、ホームページ担当者のミスで掲載が大幅に遅れていたものを、そのまま掲載しています。掲載遅延について、みなさまにおわび申しあげます。(webEngineNT 5.21)
 今国会(第217回国会)に、マイナンバーの利用を拡大する法案が提案されました。2023年にマイナンバーの利用範囲を社会保障・税・災害対策の3分野以外に拡大する法改正がされました。今回、国家資格管理への利用を3分野以外に広げるとともに、外国人の在留資格管理や武力攻撃事態における国民保護などの利用が新設されようとしています。利用拡大は慎重に検討するよう議員要請を行いました。

 2025年3月7日、マイナンバーの利用可能事務を拡大する番号法改正案が国会に提出されました1
 マイナンバーにより管理可能な国家資格等を新たに44資格拡大するとともに、在留カードの交付等や国民保護法による救援の実施など12事務にマイナンバーの利用を可能にする改正案です2
 3分野以外への利用拡大の合憲性には疑問があることや、外国人の在留資格管理や武力攻撃事態等法のような分野への利用拡大は、マイナンバー制度の導入趣旨にも反しているとして、番号法改正案を審議する衆議院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会(4/14)と参議院地方創生及びデジタル社会の形成等に関する特別委員会(4/24)の理事と野党委員に、慎重審議を求める要請を行いました3
 法案は4月17日の衆議院地こデジ特別委で審議され可決し4、翌日の衆議院本会議で可決し、連休明けに参議院での審議が行われる見込みです。
●追記● 法案は5月14日の参議院地デジ特別委員会で可決し、5月16日の参議院本会議で賛成209、反対21で可決成立しました。

議員要請

議員要請活動で関係国会議員に配布した文書
» 「マイナンバーの利用拡大には慎重な審議をお願いします」
をダウンロード(PDF)

社会保障・税・災害対策以外への利用拡大は合憲か

 2023年6月2日に、社会保障、税制、災害対策の3分野以外の行政事務においてマイナンバーの利用促進を図る番号法改正が成立しました。あわせて番号法で利用が認められている事務に「準ずる事務」と政府が判断したらマイナンバーの利用を可能にすること、そして情報連携可能な事務を法別表で制限列挙するのをやめて利用が認められている事務であれば情報連携を可能にしました5
 その直前の3月9日、最高裁判所はマイナンバー違憲差止訴訟の仙台・九州・名古屋訴訟について、マイナンバー制度を合憲と判決しています6
 この判決は、プライバシー権について半世紀以上前の憲法解釈を踏襲して自己情報コントロール権など現代的なプライバシー解釈を認めず、マイナンバー制度の下で発生している様々な漏洩やひも付け誤りなど制度の不備を認めない不当な判決でしたが、それでも次のようにマイナンバー制度の危険性を指摘していました。
 「もっとも、特定個人情報の中には、個人の所得や社会保障の受給歴等の秘匿性の高い情報が多数含まれることになるところ、理論上は、対象者識別機能を有する個人番号を利用してこれらの情報の集約や突合を行い、個人の分析をすることが可能であるため、具体的な法制度や実際に使用されるシステムの内容次第では、これらの情報が芋づる式に外部に流出することや、不当なデータマッチング、すなわち、行政機関等が番号利用法上許される範囲を超えて他の行政機関等から特定の個人に係る複数の特定個人情報の提供を受けるなどしてこれらを突合することにより、特定個人情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じ得るものである。」
 しかし最高裁が合憲としたのは、この危険性は番号法が利用範囲を3分野に限定し、提供を法律に制限列挙した例外事由に該当する場合にのみ認めて、法律で例外を厳格に規制していることなどにより、具体的な危険は生じていないというのが理由です。
 この判決理由に改正番号法は反します。しかし最高裁は、法改正後の金沢・大阪・東京・神奈川の各訴訟の上告を棄却・不受理とし、番号法改正に対する憲法判断を回避してきました7
 違憲の疑いがあるまま、なし崩しに利用拡大していくことに、私たちは疑問を持ちます。

マイナンバーの利用が可能な国家資格等の事務を拡大

 2021年、国家資格に関する事務にマイナンバーの利用と情報連携を可能にするデジタル社会形成整備法が成立しました8。2020年からの新型コロナ流行を受けて、厚労省で「地域における看護や介護等の担い手の確保などの観点から、 ITを活用した資格保有者等の掘り起こし」のためのシステムづくりを検討してきました9
 2023年の番号利用拡大法を受けて、当初社会保障・税関係の34資格だったものが、3分野以外の48資格に拡大、今回さらに公認会計士、無線従事者、技術士、電気工事士、無人航空機操縦士、核燃料取扱主任者など44資格に拡大しようとしています。
 衆議院での政府の説明によれば、約230ある国家資格について各府省庁に悉皆調査し、利用希望があった資格のうち法律に根拠がある資格について拡大対象としています。明確な選定基準はなく、デジタル庁はできるだけデジタル化の方向に持っていくと説明しています。
 国家資格はデジタル庁がつくった「国家資格等情報連携・活用システム」で一元管理され、住基ネットや戸籍情報連携システム、関係省庁・都道府県や士業団体など資格管理者のシステムとデータ連携します。

国家資格オンライン・デジタル化のシステム構成図10

*右クリックで別ウィンドウ(タブ)に表示してフルサイズで見ることができます。

国家資格の申請は、マイナンバーの提出がなくても受理する

 マイナンバーの利用が可能になった国家資格の申請では、マイナンバーの提供が求められます。しかし政府は国会審議で、登録申請書の様式にマイナンバーの記載欄を設けているが、マイナンバーの記載がない場合にも申請書は受理すると説明しています。
 デジタル庁も「一般的には、申請者がマイナンバーの提出を拒むことのみをもって、直ちに国家資格等の登録を拒否するといったことはない」と説明しています。
 また「国家資格等情報連携・活用システム」についても、利用を義務付ける規定はなく、「あくまでもお願いをしながら、それぞれの判断で活用いただくもの」とデジタル庁は説明しています。

「国家資格等情報連携・活用システム」は何が問題か?

 「国家資格等情報連携・活用システム」の目的は、マイナンバーカードによってマイナポータルを使って申請し、住基や戸籍との情報連携で添付書類を不要にすることで、事務の効率化と負担の軽減を図ることとされています。
 しかし国家資格を一元管理することにより、<有事>の際には国策に医療・土木建築・機械技術・情報通信などの有資格者を徴用・動員することが、システム的に容易になります。そもそもこのシステムは、新型コロナ下で医療現場を離れている看護職をコロナ対策になかなか動員できなかったことから、「骨太の方針2020」がITを活用した資格保有者等の掘り起こしを求めてつくられました。
 さらに「国家資格等情報連携・活用システム」と様々な個人情報管理システムをひも付けることで、たとえば経済安保法の適性評価(セキュリティ・クリアランス)や就労歴、健康状況、経済状況などをデータマッチングすることによる人権侵害も危惧されますが、その規制も不明です。デジタル庁は「各資格管理者がこれまで保有してきた資格者に関する情報が、国家資格等情報連携・活用システムにそのまま連携して移るだけで、従来の情報の範囲が広がるわけではない」「資格管理者ごとにデータベースを論理的に分離し、厳格なアクセス制御を行う」ので問題はないと説明していますが、データマッチングの危険性をまったく考慮しない説明です。
  「国家資格等情報連携・活用システム」で管理する資格情報は、資格保有者のスマホ等に表示する他、マイナポータルのAPI11を利用して民間事業者にも提供されます。その際、マイナンバーカードで「同意」する操作がありますが、同意しないと手続ができないのでは「有効な同意」とは言えません。国会審議では保育士や看護師などの有料職業紹介や隙間バイト紹介に情報提供されるのではないか問題になりましたが、デジタル大臣は「国家資格等保有者の情報は、現在、マイナポータルAPIで取得可能な情報には含まれていません」と答弁しただけです。
 申請などでマイナンバーの提供やマイナンバーカードの使用は義務ではないとはいえ、就労の際にマイナンバーカードの利用を強いられて拒めない現実もあります。資格保有者が「国家資格等情報連携・活用システム」で管理されないことを求める権利も保障されていません。

外国人の出入国・在留管理にマイナンバー制度を利用

 今回の改正案では、国家資格等に関する事務以外に12事務が拡大されます。
 その中には、出入国在留管理庁長官の事務として「出入国管理及び難民認定法による外国人の出入国又は在留の管理に関する事務であって主務省令で定めるもの」が追加されます(法別表31の4)。
 現行法では法務大臣の事務として「外国人の在留資格に係る許可に関する事務であって主務省令で定めるもの」が利用事務となっていますが、主務省令には規定されていないようです12
 改正案の概要説明では追加される事務が「在留カードの交付等」となっていますが、法別表に追加される「出入国又は在留の管理に関する事務」や現行法で法務大臣の事務である「在留資格に係る許可に関する事務」の内容と、その事務でマイナンバー制度をどのように利用するのか、衆議院の審議では明らかになりませんでした。
 ただ木村伸子委員の質問に対しデジタル庁は、在留カード等の交付に関する事務は「外国人の在留カードに記載されている在留資格等に関する情報をマイナンバーとひもづけて管理し、これらの情報を必要とする入管庁以外の関係機関に提供することで、外国人が当該関係機関に申請等を行う際に在留カードの写しの提出が不要になる」と説明しています。
 マイナンバー制度による関係機関による情報連携が、2024年の入管法等改正で導入された「永住許可制度の適正化」の調査等に利用されるのかどうか、参議院での審議に注目します。

武力攻撃事態等による国民保護にも利用拡大

 国家資格以外の利用拡大では、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置として、避難住民の誘導、被災者の救援、医療関係者に対する実費弁償、安否情報の収集・提供、損害の弁償などの事務に、マイナンバーの利用が新設されます(法別表115)。
 衆議院の審議では、「避難住民の情報をマイナンバーとひも付けて管理することで、より確実かつ効率的な避難住民の情報の管理が可能となり、いっそう迅速で的確な避難や救援の実施を図ることが可能となる」と説明しています。
 武力攻撃事態等への対応という「戦争準備」にまでマイナンバー制度の利用が広がることには驚かされます。
 今回の利用拡大事務の政策決定プロセスについてデジタル庁は、昨年6月に閣議決定されたデジタル社会の実現に向けた重点計画13に基づき、各府省庁に対してマイナンバーの利用可能性の悉皆的な調査を行い、行政事務の効率化や国民の利便性の向上につながるもので、各府省庁でマイナンバーの利用意向があるものについて利用可能事務に追加した、と説明しています。
 しかしこの武力攻撃事態等による国民保護へのマイナンバー制度の利用は、昨年度のデジタル化重点計画には載っていません。いま沖縄では自衛隊の強化ともに、国民保護法により先島地域(与那国町、竹富町、石垣市、多良間村、宮古島市)の島民約12万人を九州に分散避難させる住民避難計画が本格化しています。今回の法改正はこのような動きを効率化するために追加されたのでしょうか。 どこまでマイナンバー制度の利用が広がるのか、何にどのように使おうとしているのか、国会はしっかりチェック機能を果たすべきです。
Note

*1 » 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律及び住民基本台帳法の一部を改正する法律案 デジタル庁

*2 » デジタル庁による同上法律案の概要説明 デジタル庁

*3 »「マイナンバーの利用拡大には慎重な審議をお願いします」 共通番号いらないネット

*4 » 衆議院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会ニュース 衆議院

*5 » 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律案 デジタル庁

*6 » マイナンバー(個人番号)利用差止等請求事件最高裁第一小法廷判決 マイナンバー違憲九州訴訟に対する最高裁の2023年3月9日の判決。なお、九州訴訟における上告理由書およびこの判決の全文を、» こちら でダウンロード できます(共通番号いらないネットWebサイトで提供)。

*7 » 各地のマイナンバー訴訟 地域別 判決一覧 金沢・大阪・東京・神奈川の各訴訟に対する「上告棄却・上告不受理決定」、大阪訴訟の原告弁護団声明(共通番号いらないネットWebサイトで提供)

*8 » デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律の概要 デジタル庁

*9 »「社会保障に係る資格におけるマイナンバー制度利活用に関する検討会報告書」 厚生労働省

*10 » 国家資格オンライン・デジタル化のシステム構成図 p.10。デジタル庁「国家資格等オンライン・デジタル化の開始について」より

*11 » 「マイナポータル 自己情報取得API」 デジタル庁「マイナポータルAPI 仕様公開サイト」

*12 » 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律別表の主務省令で定める事務を定める命令 e-GOV 法令検索サイト

*13 » デジタル社会の実現に向けた重点計画 デジタル庁

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