マイナンバーはいらない

post by nonumber-tom at 2017.6.17 #177
マイナンバー 特別徴収税額通知書 総務省

「特別徴収通知書」へのマイナンバー記載問題で
総務省から回答

 総務省は今年から、事業者が住民税を給与から特別徴収(天引き)するために市町村から送る税額決定通知書に「マイナンバー」を記載させ、各地で通知の誤送付等によるマイナンバーの漏えいが発生しています。共通番号いらないネットが行ったマイナンバー制度についての府省庁交渉(2017.3.3)の中で、この住民税の「特別徴収税額通知書」へのマイナンバーの記載問題についても説明がありました。しかし当日の総務省からの説明1 ではこの問題については明確な回答が得られなかったため、改めて4月27日、福島みずほ事務所を通じて文書で総務省に回答を求め2ました。この再質問に対して、5月12日付で文書回答3をうけましたので、ここではこの回答の内容と問題点、「通知書」をめぐる最近の状況を報告します。

●マイナンバー制度府省庁交渉の経過

・各府省庁等からの「説明」(回答)4:2017年3月3日。
出席:総務省4-1、国税庁4-2、内閣官房4-3、個人情報保護委員会4-4

・総務省への「特別徴収税額通知書」問題に関する再質問の提出:
2017年4月27日。
(この質問書には「情報連携」問題についての質問4-5 も記載)

・再提出した「特別徴収税額通知書」問題再質問への総務省の回答(文書回答):2017年5月12日。
(前述「情報連携」問題の再回答は5月14日に受け取り)

・厚生労働省4-6 から、5月26日説明(回答)を受けた。


 2017年5月12日付の総務省の回答文書も、3月3日の説明と同様、質問・疑問に答えるものにはなっていません。

総務省への「特別徴収税額通知書」へのマイナンバーについての再質問事項要約

(1) 「(個人番号を)記入しないことは認められない」としているが、法的根拠は何か。記載しないと法令違反なのか。

(2) (企業・事業所などは)すでに扶養控除等申告書で個人番号を収集しているが、市町村から二重に通知しなければならないのはなぜか。

(3) (通知書の)郵送でマイナンバーが漏洩した場合の責任は自治体にあるのか。また自治体が書留で送付するための補助金を出すのか。

(4) 安全確保のため、通知書の宛先を担当部署や担当者にせよとの通知が出されているが、担当部署や担当者が分からない場合どうすればいいか。マイナンバーの収集業務を外部委託している企業などについては、送付先はどこになるのか。

(5) (通知書にマイナンバーを)記載しない自治体に対して、総務省はどういう対応を取るのか。

(6) (マイナンバーを企業などに通知することで)公平・公正な課税や事務の効率化が期待されるとしているが、具体的にどのような公平公正な課税や事務の効率化になるのか。


1. 市町村と事業者に、手間と費用と責任を押しつける回答

「認められない」が違法とは答えない
 「質問(1)」では、市町村が通知にマイナンバーを記載しないことは「法令違反か」と聞きましたが、「記載しないことは認められない」という曖昧な回答です。「違法」とは答えていません。
「補助」はしない
 「質問(3)」では、誤送付などの漏えいの責任を市町村に押しつけながら、それを少しでも防止するため市町村が検討している書留での送付費用については、「補助を行うことは考えていない」と言い切っています。
要求はしたけど、判断は自治体に丸投げ。「罰則」には言及しない
 「質問(4)」では、送付先に事業者の担当部署を明記せよという無理な求めを総務省からしながら、担当部署がわからない場合は「市区町村において適切に判断していただくことになる」と丸投げです。
 なお3月6日の総務省のQ&A5 では、事業者が適切な安全管理措置を講じないと「番号法に基づく罰則が適用されることになります」とまで書いていましたが、今回の回答では罰則にはふれていません。
記載しなくても「ペナルティ」への言及なし
 「質問(5)」では、通知にマイナンバーを記載しない市町村への対応は、「記載するよう周知徹底を行っていく」ことだけです。「ペナルティ」の言及はありません。
具体的な「公平・公正な課税や事務の効率化」の説明はなし
 「質問(2)」や「質問(6)」では、通知にマイナンバーを記載しなければいけない理由を具体的に説明するよう求めましたが、「特別徴収義務者及び市区町村間で正確なマイナンバーを共有する」ことで「公平・公正な課税や事務の効率化に資する」と抽象的一般的な説明しかありません。
 これでは市町村や通知を受ける事業者は、自分たちにはまったくメリットが感じられない事務のために、手間と費用と責任を押しつけられるだけということになります。

2. 広がる市町村の「不服従」とマイナンバー漏えいの多発

 5月に全国で一斉に送付された特別徴収税額通知書では、東京、大阪、名古屋など大都市を中心に、多くの市町村がマイナンバー(一部)不記載で通知を送ったことが明らかになりました6。報道では、埼玉県内ではマイナンバーを全部は載せない市町村が全体の8割以上(朝日新聞、5月18日7)、山口県内では19市町のうち15市町が記載見送り(中国新聞、5月25日8)などと報じられています。
 その一方で、県内ほとんどの市町村が記載して送付したところもあります。その結果、全国でマイナンバーを記載した通知書の誤送付等が多発し、各所でマイナンバーの漏えいが発生しています。報道や市町村から公表されただけでも、現時点で23道府県にわたり約80市町村ありますが、未公表の市町村も多数あると思われます9

問題は、漏えい防止の準備も不十分なまま送付させた総務省の姿勢

 高市総務大臣はこの事態に対して、5月19日の閣議後記者会見で「主に事務処理の単純なミスでございますので、これは注意を払えば防げる」「マイナンバーの漏洩事案が発生した地方団体へは猛省を促したい」と述べています10。ミスの防止に努めるのは当然ですが、しかし市町村の中には簡易書留による送付など対策を講じながら誤送付が起きたり、漏えい後に二重のチェックなど対策を講じながら再び誤送付が発生したところもあります。誤送付等を完全に避けることは容易ではありません。
 問題はこのような誤送付等の発生が指摘されていながら、厳重な取扱いを求めているマイナンバーを記載した通知を、漏えい防止の準備も不十分なまま送付させた総務省の姿勢です。自治体からも、当面は税額通知書に個人番号を記載しないことを認めるよう事前に総務省に要望がされていました。今回のようなマイナンバーの記載された文書を大量に送るようなことを続けていけば、いずれ漏えいしたマイナンバーを利用した個人情報の照合・加工・悪用が発生します。

3. 民間事業者側からもあがる疑問の声

 通知される事業者や、事務をかわりに行う税理士、社会保険労務士などからも、特別徴収税額通知書へのマイナンバー記載には強い疑問が出されています。
 中小企業へのマイナンバーの導入を支援してきた立場から、アカウンティング・サース・ジャパン株式会社の中尾健一氏は、総務省の言う「特別徴収税額通知にマイナンバーを記載することにより、特別徴収義務者(事業者)及び市区町村間で正確なマイナンバーを共有する」という理由に根拠がないことを、次のように指摘しています11
「すでに従業員などのマイナンバーを収集・管理しているこうした中小企業などでは、今さら市区町村から従業員のマイナンバーが送られてきて「共有」される状況など想定していませんし、給与事務で「特別徴収税額通知書」を使用して住民税の処理する際に本来必要のないマイナンバーが記載されていることは、紛失や漏えいのリスクを増やすばかりで、何らメリットはありません。 ・・・
 一方、何らかの事情があり、いまだ従業員などからマイナンバーを収集・管理できていない中小企業にとっては、安全管理措置が講じられていないなか、マイナンバーが記載された書類がなんの前触れもなく送られてきて管理しなければならなくなります。・・・」
 そしてプライバシーリスクを避けるためには、個人番号欄を黒塗りするなどして、マイナンバーを見ることなしに給与事務として住民税の処理を行えるようにすることを推奨されています。

4. 現場に配慮せず、ひたすら市町村にマイナンバー記載を迫る総務省

 このような事態に対して、総務省は自治体に向けて通知を連発して大慌てで対応していますが、ただただマイナンバーの記載を求めるだけで、現場の不安や疑問への配慮はありません。
 総務省は特別徴収税額通知書の送付に向けて、2016年11月25日付で送付に関する留意事項を通知していました12
 また2017年2月16日には、マイナンバーの記載されたふるさと納税申告特例の通知が誤った市町村に送付されたことに対して(静岡県湖西市で1992人分、都城市で89人分)、地方税事務における個人番号の適切な取扱いについて通知していました13

何回も繰り返される「通知」と「誤送付」

 3月2日には11月25日の通知を廃止し、関係府省と協議をして新たに特別徴収税額決定通知書の送付に関する留意事項を通知しました14。内容は11月25日付通知と同趣旨ですが、個人情報保護法による利用目的の明示と利用範囲の厳守を徹底するとともに、送付にあたり郵便局と調整することなどを求めています。
 3月3日の私たちへ回答のあと、3月6日には特別徴収税額通知への個人番号記載に関するQ&Aを通知し、批判に対して記載の徹底を市町村に求めています15
 4月19日には誤送付等の発生を予想していたかのように、特別徴収税額通知事務におけるマイナンバーの適切な取扱いの通知を出し、通知の記載のチェックや送付先の記載、委託業者への監督などを求めています16
 しかし漏えいの多発により、5月12日には再びマイナンバーの適切な取扱いについて通知し17、4月19日の通知に加え給与支払報告書と特別徴収税額通知に齟齬がないことのチェックや、「マイナンバーの取扱いについて、遺漏のないように努めること」を求めています。
 さらに5月18日にはマイナンバー記載を求める通知を出し、「マイナンバーを不記載や一部不記載(アスタリスク表示を含む)とすることは認められていない」ことを、3月6日のQ&Aとは違い技術的助言として求めています18

誤送付をなくすことはできないーーマイナンバー記載の取りやめを

 しかしこれらの対策をしても、誤送付等を完全になくすことはできません。来年度に向けて、マイナンバーの記載を止めるべきです。さらに今回送付されたマイナンバーが事業者から漏えいしたり不適切に扱われることがないよう、行政は責任をもった対応をすべきです。

Note

*1 3月3日の総務省回答の報告:»総務省に、市町村から事業者へのマイナンバー通知等を質す

*2 2017.4.27 共通番号いらないネット »質問項目:<総務省> 全文

*3 総務省 »平成29年4月27日付けで総務省に御質問いただいた項目に対する回答

*4 一連の府省庁交渉については、本サイト上に報告(下記*4-1〜*4-6参照)があります。

*4-1 総務省:
»総務省に、市町村から事業者へのマイナンバー通知等を質す
»情報連携はどうなるのか (1) 総務省から回答
»情報連携はどうなるのか (2) 課題山積の情報連携

*4-2 国税庁:»確定申告等のマイナンバー記載を 国税庁に確認

*4-3 内閣官房:»国家公務員にマイナンバーカード取得は強制できない 内閣官房回答

*4-4 個人情報保護委員会:
»2017.3.3 省庁等交渉レポート最終回 個人情報保護委員会は機能しているか

*4-5 総務省(情報連携問題関係):前出 *4-1

*4-6 厚生労働省:»マイナンバー記載なくても手続き進める 厚生労働省が説明

*5 3月6日総務省Q&A:2017.3.6 総務省自治税務局市町村税課事務連絡
»特別徴収税額通知(特別徴収義務者用)への個人番号記載に関するQ&Aの送付について

*6 東京保険医協会調査 »住民税税額通知へのマイナンバー記載 総務省に撤回を要請
週刊金曜日 2017.5.26 »「税額通知書」へのマイナンバー不記載の自治体が相次ぐワケ

*7 朝日新聞デジタル 2017.5.18 »埼玉)マイナンバー、税通知に記載 自治体対応まちまち

*8 中国新聞 2017.5.25 »マイナンバー記載 対応割れる

*9 共通番号いらないネット集計 2017.6.16
»マイナンバーが記載された特別徴収税額通知書の誤送付が公表されている市町村

*10 総務省会見発言記事 2017.5.19 »高市総務大臣閣議後記者会見の概要

*11 マイナビニュース 2017.6.5 中尾健一
»中小企業にとってのマイナンバー制度とは? 連載64 特別徴収税額通知書 “官”からマイナンバーがやってきた

*12 総務省自治税務局市町村税課 2016.11.25
»地方税事務における個人番号の適切な取扱いについて (通知) 

*13 総務省自治税務局長 2017.2.16
»地方税事務における個人番号の適切な取扱いについて(通知)

*14 総務省自治税務局市町村税課 2017.3.2
»平成29年度分以降の個人住民税に係る特別徴収税額決定通知書(特別徴収義務者用)の送付に関する留意事項について(通知)

*15 総務省自治税務局市町村税課 2017.3.6
»特別徴収税額通知(特別徴収義務者用)への個人番号記載に関するQ&Aの送付について

*16 総務省自治税務局市町村税課長 2017.4.19
»特別徴収税額通知(特別徴収義務者用)に係る事務におけるマイナンバーの適切な取扱いについて(通知)

*17 総務省自治税務局長 2017.5.12
»特別徴収税額通知(特別徴収義務者用)に係る事務におけるマイナンバーの適切な取扱いについて(通知)

*18 総務省自治税務局長 2017.5.18
»特別徴収税額通知 (特別徴収義務者用 )へのマイナンバー記載について(通知)

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