マイナンバーはいらない

post by nishimura at 2018.3.20 #214
戸籍 マイナンバー 連携 個人単位の国民管理 家単位の国民管理

学習会「戸籍へのマイナンバー導入は何をもたらすか」記録
その2 講演 : 遠藤正敬さん
「家単位」の国民管理 vs 「個人単位」の国民管理

 問題だらけの「戸籍」制度と問題だらけの「マイナンバー」。この2つを連携したとき、いったい何が起きるのでしょうか? 戸籍を専門とする政治学研究者遠藤正敬さんは、この連携を「日本人が初めて経験する『個人単位の国民管理』」だと指摘しています。2017年10月26日の学習会の全記録から、遠藤さんの講演を収録。

VII 懸念される、マイナンバーの利用範囲拡大

 マイナンバーはどういう方向に向かうのでしょうか?
 懸念材料としては、その利用範囲が拡大されることですね。その場合、拡大というのも、現在はマイナンバーの利用は行政事務に限定していますが、これがそれ以外の、例えば司法事務に利用が拡大されるということはないのか、戸籍との紐づけによってそうした行政事務以外の方面で利用が拡大される可能性はないのか、ということですね。

犯歴情報への拡大の可能性

 例えば犯歴照会ですね。現在、本籍地の市区町村では、本籍地を管轄する検察庁から、刑が確定した人について通知がいきまして、本籍地では犯罪人名簿を作ることになっています13。これも電算化されています。
 本籍のコード化が進めば、警察や検察との情報連携ができるかもしれない。これについては法務省の戸籍制度に関する研究会の平成26年12月3日第2回研究会で議論が出ていまして、発言者とかはわからないのですが、例えば「番号制度の適用範囲は裁判所に戸籍謄本を提出するような場合も対象になる可能性はあるか」という質問があって、それについては「現在の番号制度では個人番号を利用できる事務を行政事務に限っており、裁判事務は対象となっていない」と否定しています。
 あともうひとつこんな質問も出ていまして、「将来的に犯歴の情報がマイナンバーの対象となる可能性はあるのか」。これについては「犯歴情報が戸籍やマイナンバーと結びつくといった話は聞いていない。法律上、社会保障・税及び防災の分野をマイナンバー制度の利用範囲と定めている。戸籍の話が出てきたのは、社会保障にかかわる給付を適正にするために、家族関係を把握する必要があることが背景にある。犯歴の情報についてはそのような要請がない」ということだそうです。この議論の中では否定はされているのですね。

乱用される恐れを頭に入れておく

 ただ、2017年9月から法制審議会の審議が始まっていまして、さらに2019年からの通常国会で戸籍法改正案の審議が行われるわけで、そこでマイナンバーの利用範囲についても、もしかしたらこうした方面にも使おうじゃないかという議論が出るかもしれません。さらには、戸籍との連携についても、利用範囲の拡大が検討されるかもしれないですね。
 戸籍による個人情報はいろんなものがありますから、それをマイナンバーと結びつけることで、かなり目的が乱用される恐れも頭に入れておかなければいけないということですね。考えすぎだといわれるかもしれませんが、権力のやることというのは常に、悪い方へ悪い方へと考えておいた方がむしろ安心できると思います。

マイナンバーと戸籍の連携の意味は何なのだろう

 こういうことが現在も進行中であるわけですが、もともと戸籍というのは国民にとって利用機会が乏しいものであって、親子関係の証明も戸籍でなくても可能です。なのに、その戸籍がずっと日本の社会において定着している。
 その戸籍を今度マイナンバーと連携させるというとき、費用と時間もかかるでしょう。連携を積極的に進めるということは、法務省の中でもまだ、「こんなこともできるかな?」「でもそれって技術的にはまだ難しいよね」という繰り返しが多い。まだ青写真の段階なんですね。

戸籍制度の現状維持を前提としている

 私自身が考えるのは、戸籍とマイナンバーとの連携は何を意味するのだろうということですね。マイナンバーと連携するということは、結局、「マイナンバー」という現在の科学技術といいますか情報技術の粋を集めてやろうとしているはずなんですね。そのマイナンバーを、ずっと紙のまんまであったのがやっと最近になってコンピュータ化された戸籍と連携させる――「じゃあ、戸籍制度にはまったく手をつけないでそのままでいいのか?」ということについては、抜本的な改革の話はほとんど出てこない。
 マイナンバーと連携させて国民の利便を図るといううたい文句があるのなら、むしろ戸籍制度を抜本的に改革――マイナーチェンジでもあっていいのに、積極的な議論がないまま戸籍制度の現状維持が前提となって議論がされているということなんですね。

戸籍に管理されることを自然なものとする共同意識の再生産

 ですから、この「マイナンバー」という文明の装いをまとったこの制度は、これがあればいろんなことが便利になって、未来もバラ色だよなという、そういうものを国家は皆さんにアナウンスするわけですが、そこに戸籍が結びつけられる。その結果、戸籍の届出もこんなに便利になりますよ、効率化されますよということで、戸籍についてもかなり印象が変わっていく。そして戸籍というものが手軽で身近な存在になるという、幻想に近いようなものを与えることで、戸籍に管理されることが自然であるという国民の共同意識、戸籍意識が再生産されていくのだろう。それによって戸籍制度の延命につながるのではないかなと思っています。

もっと弾力的な身分登録制度が検討されないのはなぜなのだろう

 まあしかし、本当に行政サービスにおける利便、そういうものを真剣に考えるのだったら、現実との矛盾を数多く抱え込んでいる戸籍よりも、もっと弾力的な身分登録制度の実施というものが、なぜもっと優先課題として議論されないのかというところが、すこぶる疑問であります。
* *
 以上、つたない報告でしたが、ご清聴ありがとうございました。
Note

*13 「犯歴情報」が本籍地の市区町村に通知され、そこで管理されることについては、1917年の内務省訓令に基づいて行われ、戸籍の謄写本にこれが記載されていたが、謄写本への記載は1963年に廃止された(遠藤、前出『戸籍と国籍の近現代史』p.44参照)。現在も明確な法律上の規定はなく、慣例のような形で犯歴情報の市区町村への通知と管理は続いているといわれる。法務省戸籍制度に関する研究会の「戸籍システム検討ワーキンググループ最終とりまとめ」(原田報告を参照)の「システム整備における課題」(p.37)によれば、「民刑(引用者注:犯歴管理のためのデータ項目名)や本人通知管理といったデータについては、戸籍事務とは異なる事務であることから、一元化するシステムでは扱えず、当該データを管理するシステムを移行後に各市区町村が整備する必要がある」と指摘されている。

◯構成・脚注:いらないネットWebエンジン(NT)/校正協力:TK

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