厚生労働省ヒアリング回答（1）
トラブル続きでも保険証利用終了?!
マイナ保険証のトラブルについて

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　政府が健康保険証の利用を2025年12月1日に終了しようとしていることに対して、10月30日福島みずほ参議院議員事務所を通じて厚労省にヒアリングを行いました。
　マイナ保険証のトラブルや高まるプライバシーへの不安、資格確認書で顕在化している問題などについて政府の回答を聞き、質疑ではマイナ保険証の利用率が3割台に低迷する状態で健康保険証を廃止すべきではない、などと質しました（当日はこども家庭庁とデジタル庁の担当者も出席、回答¹）。ヒアリングにおける回答と質疑の内容を、3回に分けて報告します。
　第1回は、マイナ保険証のトラブルについてです。
●もくじ　» 回答（1） » 回答（2） » 回答（3）

●厚労省に事前提出したヒアリング事項²　» 全文をPDFでダウンロード
　［１］マイナ保険証のトラブルについて
　［２］オンライン資格確認等システムにおける
　　　　　　プライバシー保護等について
　［３］「資格確認書」について
　［４］マイナ保険証の利用率と健康保険証の
　　　　　　2025年12月利用終了について
●凡例：本文中の【⇒p.（数字）】：対応する » 「厚労省ヒアリング・院内集会資料」³ のページを示します。

　減らないマイナ保険証のトラブルに、医療機関は困っています。回答では、一部トラブルの是正に取り組むものの、資格表示の遅延などの抜本的な対策はなく、ひも付け誤りなどを厚労省として積極的に調査する姿勢は示されませんでした。

●「ヒアリング事項」参照： » 「ヒアリング事項」を開く
［１］マイナ保険証のトラブルについて

［１］マイナ保険証のトラブルについて

（１）トラブル事例の把握について

　ヒアリング事項　
　全国保険医団体連合会（保団連）の調査ではカードリーダーなどの不良の他、黒丸文字が表示される、正しい資格情報が表示されない、電子証明書の有効期限切れなどのトラブルに医療機関が悩まされていることが明らかになっている【⇒p.1】。

　厚労省はトラブル事例についての実態調査や、医療機関にトラブル事例の報告を求めているか。厚労省が事例を収集し改善策を検討すべきではないか。

　厚生労働省の回答　
　トラブルの事例の統計的な調査は行っていないが、医療機関からコールセンターで受けた問い合わせについて、原因究明し必要な改善を個別の事案をふまえて対応している。

　＜質疑及びコメント＞　
　マイナ保険証を利用すれば最新の正しい医療保険の資格情報が確認できて過誤請求が減少する、というのが厚労省の宣伝でした。しかし本格稼働して4年経過しても最新の正しい情報が表示されず、医療機関では健康保険証で確認したり、厚労省も確認のため「資格情報のお知らせ」も持参するよう勧めている状態です⁴。
　トラブルの実態について厚労省自身が積極的に調べ是正に取り組むべきではないかと質しましたが、コールセンターで把握している以上の対応は示されませんでした。

（２）文字の黒丸表示について

　ヒアリング事項　
　政府は黒丸表示は仕様でありトラブルではないと説明し、厚生労働省は黒丸表示のまま診療報酬請求は可能と医療機関に説明してきたが、8月28日の社会保障審議会医療保険部会において、令和8年度中に氏名の黒丸表示を解消（縮小）する方針を示している【⇒p.1】。

　これは黒丸文字表示も解決すべきトラブルと認めたということか。住所データについては黒丸表示は起きていないか。

　厚生労働省の回答　
　黒丸表示は、オンライン資格確認や保険者から登録をする中間サーバーとの連携といった各種システム間の連携の中で、文字の規格仕様が必ずしも一致していないことに起因するもの。トラブルではなくそういう仕様であり、医療機関には訂正せずにそのまま診療報酬請求できると周知している。
　そうは言っても黒丸表示はない方が望ましいので、なるべく関係者に負担をかけない形で黒丸に表示されている文字を標準的な形で表示できるように、いま仕組みの調整を行っている。
　住所データについても同様で、解消を図っていく。

　＜質疑及びコメント＞　
　多発している氏名・住所の一部が「●」で表示される問題について、来年度中に表示を減らす方針を示したのは一歩前進ですが、厚労省は依然としてそれはトラブルではないという姿勢で、医療現場の実態とのズレを感じます。

（３）医療保険資格表示の誤りについて

　ヒアリング事項　
　厚労省は、転職等による保険者の異動や世帯構成の変更などにより、正しい直近の保険資格が表示されない場合があることを認識してきた【⇒p.2】。

　昨年のヒアリングでは、会計検査院よりタイムラグによる表示の遅延を指摘されたことに対し、新規資格取得から10日以内に利用者登録をすることを省令に定めて各保険者に改善計画を策定し速やかに必要な取り組みを行うよう求めていると説明していた。遅延は解決したか。

　厚生労働省の回答　
　資格異動があったときに事業主からの届出を受けて保険者が中間サーバーに登録することで、初めて異動した後の資格がオンライン資格の中で確認ができる。会計検査院からも、資格と加入者情報の登録の遅れを指摘をされ、省令の改定等を厚労省として行ってきた。
　各保険者の方々には対応に尽力いただき、タイムラグが全く解消しているということではないが、一定程度改善が進んでいる。引き続き、保険者の取組状況を注視しながら、タイムラグがなるべくなくなるように進めていく。

　＜質疑及びコメント＞　
　資格情報の更新が遅れて古い情報が表示されるタイムラグについて、厚労省は原因は様々としながら加入者の届出や事業主からの提出の遅れのためだとして、その改善状態は説明されませんでした。しかし会計検査院は2024年5月15日の「マイナンバー制度における地方公共団体による情報照会の実施状況について」⁵ で、事業主が日本年金機構に届出を提出して審査後に協会けんぽに情報を伝え医療保険資格情報を更新するなどの構造上の遅延原因も指摘しています。
　厚労省は、タイムラグがあると古い資格が表示されて資格が無効になるが、古い資格で請求してもレセプト審査の過程で新しい資格が登録されればそちらに振り替えるので医療機関が対応しなくても請求が通るので大丈夫という説明ですが、最新の正しい資格情報が表示されない状態のままではマイナ保険証の導入目的が実現していません。

（４）他人の情報がひも付けされる誤りについて

　ヒアリング事項　
　政府は解消したとしているひも付け誤りが、保団連が5月8日に発表した調査報告では依然報告されている【⇒p.1】。

　その実態と原因をどう把握しているか。

　厚生労働省の回答　
　保団連の調査でひも付け誤りがまだあると報告いただいているが、医療機関でどういった形で表示されたものをひも付け誤りと回答しているのか、我々は把握できていない。
　政府全体の取組としてはマイナンバー総点検の中でひも付け誤りを確認した上で、医療保険については登録済みのデータ全件をJ-LISと照会し、不一致になったものを保険者で確認するとともに、新規に加入者登録する情報は昨年から全件J-LISに照会して誤りをチェックしており、それ以降は基本的に新たなひも付け誤りが起きないような仕組みにしている。

　＜質疑及びコメント＞　
　「複数の機関に蓄積される個人の情報が同一人の情報であることの確認をする社会基盤」として作られたマイナンバー制度にとっては、マイナンバーのひも付け誤りは致命的なトラブルであり、他人のプライバシー漏洩や誤った診察につながる大きな問題です。
　しかし厚労省はひも付け誤りの発生が指摘されているにも関わらず、その実態把握もしていません。　「本人に確認をして連絡が取れていない中に、もしかしたらひも付け誤りがあるかもしれない」と認識しながら、対策をしてきたのでひも付け誤りはおきないはずだと、調査しようとしていません。

（５）健康保険証の併用について

　ヒアリング事項　
　正確な直近の資格情報が表示されるようになるまで、マイナ保険証利用の際に健康保険証の提示を継続し、表示の齟齬の発生を調査すべきではないか。紙に印刷しただけの「資格情報のお知らせ」では、資格情報を偽造されるおそれはないか。

　厚生労働省の回答　
　健康保険証は昨年12月以降新規の発行を停止し終了しており、この12月をもって経過措置が終了する。順次国保をはじめ有効期限を迎えているところもあり、健康保険証の新規発行も含めて今の仕組みを継続することにはならない。
　「資格情報のお知らせ」は確かに紙で印刷をされる簡便な形ではあるけれども、医療機関の受付でマイナンバーカードと合わせて提示し、齟齬があればその時点でおかしいと気づいていただけるので、偽造や成りすましが起きる可能性は低い。

　＜質疑及びコメント＞
　最新の正しい医療保険資格情報が表示される状態になっていないのに、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行するというのは乱暴です。健康保険証を継続しながら、正しい表示がされるように改善していくことが、なぜできないのでしょうか。
　容易に記載内容を改ざんできる「資格情報のお知らせ」を提示して、資格情報の誤りを気づけるとはかぎりません。

Note

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＊1　厚労省ヒアリングに出席した各省庁・部署は以下のとおりです。
　　【厚生労働省】
　　　保険局医療介護連携政策課保険データ企画室
　　　保険局保険課企画法令第一係
　　　大臣官房情報化担当参事官室
　　　健康・生活衛生局感染症対策部予防接種課
　　　医政局参事官付医療情報室
　　　医政局医療情報担当参事官室
　　　保険局保険課支払基金業務調整係
　　　保険局国民健康保険課
　　　保険局保険課指導調整係
　　【こども家庭庁】
　　　成育局母子保健課
　　【デジタル庁】
　　　デジタル社会共通機能グループ
　　　国民向けサービスグループ

＊2　厚労省に事前提出したヒアリング事項 » 「厚生労働省ヒアリング事項」

＊3　» 「厚労省ヒアリング・院内集会資料」　（当日配布資料　pdfファイル)

＊4　» 「医療機関・薬局での資格確認とレセプト請求」（スライド：2025.5.1、第15回社会保障審議会医療保険部会　資料2）

＊5　会計検査院　» 「マイナンバー制度における地方公共団体による情報照会の実施状況について」